サウジが「女性の運転解禁」に踏み切った事情

人権的な理由だけではない

サウジでは運転を禁止する具体的な法律は定められていないが、女性に対して運転免許証を発行しないことで、運転が禁止されてきた。保守的なイランやほかの湾岸諸国でも女性の運転は禁じられておらず、国際的な人権団体やメディアがサウジの保守性や特異性、男女平等意識の欠如を批判する材料となってきた。

女性の運転に関しては1970年代にいったん論議が起きたものの、宗教界からの反対で解禁に向けた歩みは停滞。この動きに弾みがついたのは2010年末からの中東の民衆蜂起「アラブの春」である。

エジプトのムバラク政権など専横的な体制が相次いで打倒され、サウジでも王室の支配や保守的な政治に国民の厳しい眼差しが向けられるようになった。2013年には首都リヤドなどで女性が運転する動画が相次いでインターネット上に投稿され、国際免許証を所有する女性たちがサウジ各地で運転するキャンペーンを展開、国民の間ではこうした過激な行動への支持も集まった。

こうした中、アブドラ前国王の時代から徐々に女性の社会進出を促す政策が実行されてきた。2009年には、サウジ初の男女共学大学としてキング・アブドラ工科大学を設立。2013年には、国政の助言機関である諮問評議会(定数150)に初めて女性30人を任命した。2015年の自治評議会(地方議会)選挙では、初めて女性に選挙権と被選挙権が認められるなど漸進的な女性の社会進出を容認する政策が進められてきた。

イスラム教の価値観に対する意識変化

女性の社会進出の動きには、保守的なイスラム教の価値観に対する意識の変化がある。サウジは旅行など海外から訪れるのには厳しい制限が設けられている国だが、サウジ人女性らは海外留学や海外旅行に積極的で、インターネットの普及率も高くて西側の情報や価値観にも接している。

あるサウジ人女性は「イスラム教の保守的な価値観を重視していない女性も増えている。宗教界は伝統的な価値観を守るのに必死になっている」と話す。

もっとも中には「女性の権利拡大の障害になっているのは女性自身だ」(サウジ人女性弁護士)との声もある。金銭的に恵まれた層では運転手や、家事・子育てを担う家政婦を雇い、あえて社会で活躍しなくてもいいという女性側の意識が少なからずある。また、女性が男性に従属させられてきた歴史的要因があるとの指摘も出ている。

サウジが女性の権利拡大に急ぐ背景には、石油依存体質や公的部門に偏る経済の構築が急務という台所事情もある。サウジはアラブの春後、不満を抱えた国民を懐柔するため補助金拡大などの大盤振る舞いに踏み切ったが、原油価格の低迷も重なって、財政赤字が拡大。人口増加や石油消費の拡大で、2020年代には石油の国内消費が輸出を上回るとの予測もある。人口増加によって補助金がさらに増加することになり、財政状況の悪化が懸念されている。

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