サウジが「女性の運転解禁」に踏み切った事情 人権的な理由だけではない
女性の自動車運転が禁じられている世界で唯一の国であるサウジアラビアで、来年6月に運転が解禁されることになった。サウジでは現在、100万人以上の女性が毎日、職場への行き帰りのために運転手を雇用したり、タクシーを利用したりするのを強いられており、労働生産性に悪影響を与えているとの意見が上がっていただけに、今回の決定に国は祝賀ムードに沸いている。
ツイッター上では、「サウジで運転できるようになるなんて信じられない」とか、「サルマン国王のすばらしい決定」などと歓迎するツイートがアップされている。2011年に運転する動画を投稿して逮捕された経験を持つマナル・シャリフさんは、ツイッター上で、「もうサウジは前のサウジには戻らない」と、国王の決定を歓迎するとともに、伝統衣装を着た女性がハンドルを握るイラストを投稿した。
法律はないが、免許を発行してこなかった
戒律の厳格なイスラム教ワッハーブ派を信奉する保守的なサウジは今、若者らの意識変化に政治や社会の変革が迫られているという事情がある。また、次期国王の最有力候補と目される、若きムハンマド皇太子兼国防相が主導する経済改革構想「ビジョン2030」の実現に向け、石油依存体質からの脱却や民間部門の育成を推進するための意識改革を進める狙いもありそうだ。
メッカ、メディナというイスラム教2大聖地を擁するサウジの一勢力にすぎなかったサウド家は、18世紀半ばにワッハーブ派という宗教勢力との協力関係を樹立。世界最大級の石油資源を独占的に管理する政治的、宗教的な正統性を得てきた。このため、サウジ王室は、宗教保守派に配慮する必要があり、イスラム教や伝統文化に絡む大胆な改革を実行するのが難しいという事情を抱えてきた。
女性の運転に関しては、女性を保護の対象と考えるイスラム教の保守的な解釈や、女性は育児や家事に集中すべきだとの考え、女性が運転すれば不倫など男女出会いの機会が増えるといった意見から、イスラム聖職者らが解禁に反対してきた。だが、サウジの一部の地方では、必要不可欠な交通手段として女性の運転が一般的に行われているほか、都市部でも子どもの送り迎えに苦労する親の不満が高まり、運転禁止の弊害が目立つようになっていた。
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