「組長の妻」、その超ワルな人生は壮絶だった 喧嘩、シンナー、男性関係、クスリ…
刑務所や拘置所では、独居房にいることが多かったためあまり面白いエピソードがないと謙遜するものの、なぜか男性用の刑務所に拘置されたり、林真須美と隣部屋になったり、「東住吉事件」の青木恵子さんに弁護士を紹介してもらったりと、興味深いエピソードが次から次へと飛び出してくる。
むろん一連の行動や出来事は肯定されるべき行為ではないし、武勇伝として捉えることも違うだろう。重要なのは、本書で軽妙に語られるダークな世界、そこから抜け出すことが、いかに困難であるかということだ。
組長の妻としての新しい人生
結局、彼女を極悪の世界から救い出したのは、後に旦那となる男であった。カタギの仕事をもつ元ヤクザが、知らぬ間に彼女の周りの人間関係を身辺整理していったのである。そして住まいを変え一緒に暮らすようになり、やがては子供も出来る。後に旦那が再びヤクザに戻るのは想定外であったものの、そこから組長の妻としての新しい人生が始まるのだ。
ここ数年読んできたヤクザもののノンフィクションの中には、暴対法によって「排除」の正当化が進み、困窮する姿を描くものが多かった。しかし本書の著者は、ヤクザ離脱者の実態を調べる研究者であり、暴力団離脱者が受け入れられる社会の必要性を説く人物だ。
この著者の昨今の多作ぶりを見るにつけ、いよいよヤクザの世界は最終ステージに突入したのかもしれないと感じる。だからこそ、ヤクザをはじめとする病理集団を離脱した者たちが、どちらの方向へ舵を切るのか、注視しなければならないのだ。
本書の登場人物達が犯したような犯罪を「自己責任」の一言だけで片付けることこそが、問題を矮小化させてしまう。彼女たちがどのような生い立ちで、どのような経験をすることで、どのような行動につながったのか。そのパターンを累積し、見えてきた構造や仕組みを表社会の側が理解しようとすることから全てが始まるのだ。
人は必ず変わることができる――そう信じる全ての人におすすめしたい一冊である。
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