「働き方法案」に潜むブラック要素を検証する 「成果で賃金を支払う」もウソ?
「非正社員が職能給で評価されることはほとんどない。たいていが時間給です。成果給でもありません。年功賃金といったって、契約期間の定められた短期雇用が基本だから、正社員と年功が同じになるわけがない。しかも、それを会社が嫌だと思えば、契約の更新をやめてしまえばいいだけ。こんな同一労働同一賃金で格差が解消されるとは、とても思えません」
また、このような基準を適用したところで「実際は上司の胸先三寸というのはよくある話」と竹信さん。
「もともと日本の正社員の賃金評価は主観的で、かなり恣意的です。会社に盾つくと減らされちゃう。だから、みんな従順になるわけですね。今回の制度は、そうした評価方法を非正規に広げただけ。仮に非正規への偏見を持っている上司の下で働いていたら、うだつが上がらないままです。もし安く働かせたいと思っている方針の会社だったら、非正規だけに難しい試験をやらせて、落としてしまうでしょう」
このような制度は「同一労働同一賃金ではなく、同一労働同一義務」と竹信さんは手厳しく批判する。
一方、欧米では、スキル・責任・労働環境・負担度の4項目で仕事を分析、それぞれ点数化して、正社員・非正規の間で比較するILO(国際労働機関)の評価方式を採用している。
「例えば、正社員はエクセルが使えないが、非正規はできるためスキルの点数は非正規が上。それなのに、賃金で大差がついている場合は、是正しなければなりません」
具体的な仕事内容を数値化して比較するため、上司の主観が忍び込むのを防げるというわけだ。
格差解消が求められるなか、公正という視点の欠けた、名ばかりの制度を作られても意味がない。
過労死ラインもOKの規制で長時間労働は正せるのか?
電通事件をきっかけに長時間労働の規制を求める声が高まっている。世論の要請に加えて、長時間労働の是正は「働き方改革」いちばんの目玉。安倍政権の真剣さが問われるところだ。
前述したとおり、会社が労働者を働かせていい時間として定められているのは法律上、1日8時間、週40時間まで。ところが、労働組合と雇い主が協定を結べば、1か月45時間、1年360時間の残業が可能に。
「これを『36協定』といいますが、さらに特別条項を設けていて、年6回、この上限を突破できる。忙しいときには45時間では終わらないだろうから、例外中の例外として認めますよという決まりです」
と佐々木弁護士。ただ問題は、何時間までという上限がいっさいないこと。
「月160時間とか、180時間を働いていいとしている企業もある。例外として認めた場合の上限が、今はないわけです。それを作ろうというのが今回の法案です」(佐々木弁護士)
法案のポイントについて竹信さんはこう話す。
「これまで法律で決められていなかった残業の上限が原則、月45時間、年360時間という縛りが罰則つきで定められ、法律に明記されることになりました。一応、法的な縛りができましたよ、ということ。でも、“きわめて忙しい時期”は1か月に限り100時間未満まで、2~6か月で平均80時間までの残業も認めてしまった。これって、過労死すれすれの時間なんですよ。1か月で100時間程度、2~6か月で平均80時間程度、残業して亡くなったら、過労死と認定されて労働災害になりますから。過労死寸前まで働かせていいと言っているのと、同じ意味になってしまう」