「働き方法案」に潜むブラック要素を検証する 「成果で賃金を支払う」もウソ?
また年間でも特例として、年720時間までの残業が認められた。しかも、これには「抜け穴」がある。休日出勤した場合の労働時間は含まれていないのだ。記事冒頭の図のように、年720時間に、規制の範囲内で、休日労働した時間を加えたら……、理論上、最大で年960時間は残業ができることになってしまう。
「こんな法案で規制できると思うなんておかしい。長時間労働の是正につながるわけがありません」(竹信さん)
罰金30万円以下、懲役6か月以下の罰則を設けてはいるが、効果は未知数。そもそもなぜ、過労死リスクを伴うような規制を認めたのか? 佐々木弁護士は、安倍首相の発言による影響が大きいと言う。
「働き方改革の会議へ出席した際、安倍首相は、残業の上限時間について労使のトップで話し合い合意できなければ、法律を作らないと言ったのです。何の成果もなく帰るわけにはいかないと連合は妥協案をのんだ。首相がイニシアチブをとって指導すればよかったのに、そうしませんでした。例えば、目標を段階的に設定して、今は80時間だけど2年後には60時間に引き下げるとか、そういうマシなやり方もあったのに」
かえってサービス残業が増え、「残業隠し」や「持ち帰り残業」が、さらに発生するかもしれない。
さらに、女性にとって厄介なのは、家庭との両立が難しくなるという点だ。竹信さんが言う。
「人間って、1日ごとに休まないと健康を害してしまうし、場合によっては死んでしまう。それに仕事のあと、家事や子育てをやるには一定のまとまった時間が必要です。1日のうち働くのは何時間までという上限がなければ、仕事と家庭との両立は難しい」
ところが今回の法案には、1日あたりの残業規制がほとんどない。
「EUで取り入れられている、1日の勤務終了後から次の始業時まで11時間は必ず間隔をあける『勤務間インターバル規制』が日本でも検討されていたのですが、結局、企業の努力義務になってしまった」
と竹信さん。女性活躍が喧伝されたことで、「言われたままに女性たちが頑張ってしまう」と危惧する。
「長時間、働かされ続けると身体を壊します。そんなに長く働けないという人は非正規に流れ、頑張る人は過労死の危険にさらされる。電通やワタミの長時間労働で亡くなったのは女性でしたが、ああいった事件がもっと増えるのでは? 介護離職にも影響を及ぼすでしょう。女性活躍の真逆を行くことになる」(竹信さん)
誰のための改革で一括法案なのか?
ここまで「働き方法案」の詳しい中身を検証してきた。どれひとつをとっても暮らしを大きく変えてしまいかねない重要法案。それをまとめて審議することに佐々木弁護士は、「雑すぎます」とキッパリ。
「働き方改革の理念は長時間労働をなくすこと。しかし議論の結果、上限を月80時間や100時間と定めた残業規制は、高度プロフェッショナル制度には適用されません。片方では規制しますと言いながら、もう片方ではリミッターをはずすことをやっている。これでは改革になっていません」
一括審議することになれば当然、それぞれの法案を審議する時間が減る。竹信さんは、「法案をひとつのパッケージにすると、個々の細かい審議ができなくなる。安保法制のときと同じです」と指摘。
「企業の都合に合わせた“働かせ方改革”が実態。それでは票が取れないので過労死防止を付け加えた、だましの手法です」
もう同じ手は通用しない。そう政権に突きつけてもいいころだ。
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