「働き方法案」に潜むブラック要素を検証する 「成果で賃金を支払う」もウソ?
そして営業職は、ものを直接売るのではなく、企業などが相手の法人営業が対象。これも、ほとんどの営業職が入ってしまう。
「しかも、これには収入の条件がありません。年収150万円だろうと200万円だろうと該当するのが怖いところ」(佐々木弁護士)
加えて、ブラック企業に悪用されるおそれもあるというから、たちが悪い。竹信さんが指摘する。
「一定時間は残業したとみなして給料を計算するわけですが、このとき、基本給を安く設定すれば、残業代を入れて、ようやく普通の賃金ぐらいになる。過労死裁判で、初任給19万円のうち、80時間もの残業代を組み込んであったという事例もあったほど。対象が広がればブラック企業はやりやすくなるでしょうね」
そのため佐々木弁護士らブラック企業対策弁護団では、裁量労働制の対象拡大を、「ブラック企業に栄養を与える制度」として以前から批判してきた。
「裁量労働制にあてはまらないのに、会社が拡大解釈して社員に強制するようなケースもあります。本当は対象ではないのに、管理職や営業職なのだからと言って、裁量労働制を適用する。あるいは、実際の残業時間に見合わないような給料しか払わないとか」
現行の裁量労働制でさえ同様の問題が起きて、裁判になっている。
「裁量労働制のもとに長時間労働をさせられて、うつ病になったから辞めたいと会社に言ったら、辞めさせないばかりか、反対に2000万円の損害賠償を請求してきたという有名な『AdD事件』があります。弁護士がよく話を聞いてみると、裁量労働にあてはまらないケースだったため、会社に1000万円の残業代を請求したんです」
判決では、会社の請求は棄却され、残業代が認められた。とはいえ、職場で理不尽な思いをした誰もが裁判を起こせるわけではない。危ない法律は、やはり作らせないに限るのだ。
パートや派遣の給料も社員並みに?
非正規雇用が働く人の4割にのぼり、女性に限れば6割を占める状況のなか、待望される『同一労働同一賃金』。同じ仕事ならば、正規・非正規にかかわらず同じ給料・待遇であるべきとの考えに基づくこの制度は、「働き方改革」の柱とも言われている。
ところが、肝心の中身はというと、格差解消の期待に応えるものからはほど遠い。竹信さんが指摘する。
「正社員に出ている交通費が非正規にも出るとか、一部にいいところはあるものの、肝心の賃金が問題。それがまったく是正されないしくみになっています」
法案では、できる仕事内容に応じて給料や待遇が決まる『職能給』や、成果に応じて給料が支払われる『成果給』の場合、正社員と同じ仕事内容だったり、成果を上げていたりするのに賃金が極端に安ければ、それを見直さなければならないとしている。
勤続年数に伴い給料が増える『年功賃金』の場合も同様だ。
このどれもが、非正規にとって現実的ではない。