闘う哲学者と「うるさい日本の街」の30年戦争

善良な市民は社会公認の悩みしかわからない

私はこうした問題意識をもって、1985年に仲間と『静かさについて』(第三書館)という本を出し、翌1986年には『うるさい日本の私』(洋泉社)を出したところ、思わぬ反響で、朝日新聞の「天声人語」で取り上げられ、30種類くらいの新聞雑誌で取り上げられ、どんどん取材が舞い込み、この本はのちに新潮文庫に入りました(後、日経文庫、角川文庫)。

これで、私も仲間たちも祖国は変わるだろうと思っていたのですが、そうではなかった。ここでちょっと自己宣伝すると、私は、その後『うるさい日本の私、それから』(洋泉社、後『騒音文化論』と改題して講談社+α文庫に入り、さらに『日本人を〈半分〉降りる』と改題してちくま文庫に入る)、『〈対話〉のない社会』(PHP新書、その後、『〈思いやり〉という暴力』と改題してPHP文庫に入る)、『醜い日本の私』(新潮社、後、新潮文庫)、加賀野井秀一さんとの対談『うるさい日本の私たち』(講談社、その後講談社学術文庫に入る)。

そのあいだ、私はありとあらゆる「発音源」に足を踏み入れました。駅員と議論し、駅長室で駅長さんと議論し、JR東海の本社まで出かけていって抗議し、デパートの営業部まで乗り込んで、放送にクレームをつけ、小売店にもスーパーにも文句を言い(手紙を書き)、夏の江の島海岸の放送にも文句を言い、さらには、警察のパトカーにも抗議し、選挙カーを怒鳴りつけ、右翼の轟音を見過ごしている交番の警官にも抗議し、お花見などの注意放送をしている警官からマイクを奪い取りました。

駅に向かう途中にある保育園では、道路沿いの園庭で、保育士が保育園児に対して大音響のマイクを通してしゃべっている。ときどきそこを通過するときに耳をふさいで通りすぎていたのですが、ある日、20メートル四方に轟く音ですぐ前にいる20人ほどの園児に「みなさんは……」と語りかけているのを確認して、保育園の中に侵入して(いまは許されませんね)保育士に「子供を殺す気か!」と抗議し、銀座のデパートの浴衣ショーの轟音に抗議して車道で見学、数十メートルの渋滞を引き起こし、住宅地まで大音響で侵入してくる共産党の遊説カーに「やめろ!」と怒鳴り、やめないので車の前で「俺を轢け」とごろんと横になり、竿竹屋に5000円払って向こうに行ってもらい……とにかく、活動したのです(これらは、いま挙げた本にはみな書いてある)。

なお、こうした「過激な」行動は半分演技であって(じゃなきゃ、もたない)そのつど相手の反応を見て研究する。さらに、さまざまな学界(日本音響学界、サウンドスケープ協会)で発表し、NHKラジオやTBSラジオに出て訴え、おかげで「闘う哲学者」というニックネームまでいただいたくらいであり、当時はかなり「有名」だったのです。私が議論した相手は5000人を超えているでしょう(約30年間毎日ですから、それも1日数回ということもある)。そうして、闘争の合間、ありとあらゆる側面から、次の作戦を考え、敗戦の原因を考え……と、私はこの問題を日本で一番考えた男だという自信はあります。

トクする人に、ソンする人をさげすむ権利はない

今回の私の記事に対して批判的コメントを書いた人のうち、自分は何もしないで、ただ「バッカみたい」とせせら笑うような御仁に対しては、「じゃ、あなたは何をしましたか?」と聞きたい。自分で行動してからそう言ってもらいたい。本当にエスカレータの放送が必要だと思うなら、ないところ(例えば、成田空港や新宿駅の京王線ホーム)などはさぞ不快でしょうから、設置するように粘り強く抗議してほしい。そして、そうしないのなら、結局は「どうでもいい」のでしょうから、黙っていてほしい。

これも私の信条ですが、与えられた環境(現代日本の公共空間における音環境)において自分がトクしている(ソンしていない)人は、基本的に発言権がない。まして、ソンしている人を切り捨てたり、さげすむ権利はないということです。

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