「レンタル移籍」は雇用流動化の有効ツールだ 会社を「越境」した社員は何を得たのか

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このレンタル移籍を活用しているのが、NTT西日本だ。同社は、外部とのアライアンスを通じた事業創造を推進していて、事業創造を担える人材の育成を必要としていた。一方、受け入れる側は「風景の流通」という新しいテーマに取り組むスタートアップ企業であるランドスキップ。旧国営企業からベンチャーへの「レンタル移籍」は、うまくかみ合うのか。

ランドスキップは、デジタルサイネージやVR空間を通じて、森、川、海などの自然の美しさを、ありのままに360度4K映像で切り取って配信するサービスを提供している。オフィスや家庭だけでなく病院や公共施設などもターゲットだ。「研修」という形で2017年4月から1年間レンタル移籍したのは、2009年にNTT西日本に入社した佐伯穂高氏。ビジネスデザイン部で開発戦略の策定や業績管理に携わっていた。

NTT西日本は「大企業では得にくい、アイデア創出からビジネス拡大に至るまでを通じた経験を実践し、べンチャー企業ならではの価値観、働き方、経営全般を見渡す感覚を養い、組織に還元することを目的に今回派遣することとした」と今回の移籍の意義を説明する。生活基盤の周りでIoTを取り入れるビジネスの展開を考える思惑もあり、ランドスキップへの移籍が実現した。佐伯氏も「VRやAR(拡張現実)といった最新テクノロジーはもちろん、映像を撮る技術なども、NTT西日本で経験することは難しい」と話す。

「個人商店」からの脱却が課題だった

ランドスキップは、正社員は4人。フルタイムでコミットしない人を含めても10人弱という小規模組織だ。社長の下村一樹氏は、これまでアップルコンピュータやコンサルティング会社などでキャリアを積んだ後、同社を起業した。会社は順調に成長しているが、「個人商店」というスケールにとどまっていることに危機感を覚えていたという。

「経営やビジネス開発をするのは自分しかおらず、そのほかの正社員はエンジニアや、カメラマンのみ。このままだと事業としての広がりはない。スタートアップは新しいことをやって勝ち進めるという、いい意味での爆発力はあるが、それだけだと成長への課題を見落としてしまう」(下村氏)

一方、大企業では文化的に減点主義で考える癖が抜けないことも多い。新規事業をやることになっても、建て付けだけ作って誰も推進せずビジネスも大きくならないといったことがよくある。しかし、ベンチャーでは発想して行動し、最後までやりきる力がないと、生き残ることはできない。佐伯氏は「下村さんがビジネスパーソンとしてすばらしいのは、やると決めたことに対しての突破力」だと話す。

「市場の生の声を聞きに行くことは最初はつらいが、まったく厭(いと)わない。人を引き付けながら、ビジネスを作り上げていくとはこういうことかと。ビジネスを作り上げていくということは、おカネで解決できるものでもなく、体も頭も汗をかかないと無理だということを実感した。また、経営者としてすごいのは、今の事業がうまくいきつつ、次どこで食べていくかをつねに考えているところ。3年後に流れが来たとしても、急にそのビジネスをやろうとしても遅いが、大企業ではありがち」(同)

下村氏が組織の経験がある佐伯氏から学んだことは何だったのか。それは、ビジネスを「事業」に進化させることだったという。

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