イケメンや美女がビジネス書を席巻する日 電子書籍発で起こりうる市場変革
デジタル機器で本を読むことに抵抗を感じる人も当然いるのですが、電子書籍の市場は確実に拡大しています。
このような電子書籍の台頭は、出版業界の流通形態に大きく3点の変革をもたらすと思われます。順を追って説明しましょう。
①「初速」という呪縛からの解放
第一に、「初速」という呪縛から解き放たれたこと。
「初速」とは、本が店頭に並び始めて1週間程度の売れ行きを意味します。紙の本の場合、この期間の売れ行きが良ければ畳みかけるように重版をします。逆に売れ行きが悪いとあっという間に店頭から消えかねません。そこで、店頭でいい場所に置いてもらえるように、出版社も著者も必死になりました。タイトル戦争も、そのために起こった側面があると言えるでしょう。どんなに中身がよくても、目立たなければ初速が悪くて消えてしまう。これは作り手にとって恐ろしい呪いでした。
ところが、『さおだけ屋~』の例を挙げたように、電子版の特徴はロングテール。初速を気にせず、長い目で見て売れる本作りができるようにはなりました。
もう一例を挙げましょう。『ルワンダ中央銀行総裁日記』(服部正也著、中公新書)は一見するとマニアックな題材ですが、ネット上で「ライトノベルのようなストーリー展開で面白い」という反響が広がり、電子版の売り上げが伸びたそうです。この本が刊行されたのは、なんと私が生まれるよりも前の、1972年(2009年に増補版刊行)。40年以上の時を経て、再評価されたということです。
このように出版業界はいま、まだ完全にではありませんが「初速」という長年の呪縛から逃れつつあるのです。
②再販制度、委託販売の壁崩壊
第二に再販制度、委託販売の壁を壊したこと。
電子版と紙の本との最大の違いは、「値下げ販売」ができるか否かです。電子の世界では、これまでの出版流通を支えてきた「再販売価格維持制度」と「委託販売」のルールが通用しません。これらの制度の崩壊により、価格の自由化が進み、読者はより安価で本を手にすることができる一方、出版社や著者側は利益をあまり出せなくなる、という時代に入ったのです。2000年代のように、利益を出すために各出版社がビジネス書に参入する、といった時代はもう来ないでしょう(本筋ではないため詳しくは触れませんが、出版社はより利益率の高いセミナー事業や本の直販といった方向に進むのでしょう)。
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