コンピュータの格段進化は突然やってこない 社会が変わるかどうかは結局人間次第だ

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うちの作品を「人間の肌感覚があるからウォームテック、暖かいテクノロジーだね」と評した人もいました。確かに一般的には、テックがもたらす未来をすごく温度感が低いイメージで想像しますよね。

真鍋大度・石橋素率いるライゾマティクス・リサーチとMIKIKO率いるELEVENPLAYによるダンスインスタレーション作品「border」

人が道具を作り、道具が人を作る

――低いですし、対立的にとらえますよね。

齋藤 精一(さいとう せいいち)/1975年生まれ。1999年東京理科大学工学部建築学科卒業、2001年米コロンビア大学建築都市修景学部大学院修了(M.S.A.A.D.)。ニューヨークの建築事務所を経て、2006年にライゾマティクスを設立。京都精華大学デザイン学科非常勤講師、カンヌ国際広告賞Branded Content and Entertainment部門審査員(2014年)、ミラノエキスポ日本館シアターコンテンツディレクター(2015年)など歴任(撮影:今井康一)

人間は対立構造で考えるのがいちばん楽ですから。でも人が道具を作り、道具が人を作るという言葉があるように、人間って新しい道具を乗りこなそうとするし、実際にそうできるのだと思います。

僕、しばしば感じるのですが、みんな未来を「やって来るもの」と思っている。あるいは、電車に乗って次の駅についてドアが開いたら、そこが突然未来になっているような、非連続な変化が未来だと思っている。SF映画の影響かもしれません。だけど未来というのは、現在の連続の上に成り立っている。コンピュータのようなテックも、突然変異しない、連続の線上にある道具だと思います。

――デジタル時代には物事が急速かつ飛躍的に変化するので、突然変異していると思ってしまうのかもしれません。

そうだと思います。それから、理論的は可能なのにどうしても実現できないことや、ムーアの法則(半導体の集積密度が18~24カ月で倍になるという経験則)のようにこれまで成立していたのに成り立たなくなっているものが近年増えているようにも思います。そういうものをみると、連続性があるという実感を持ちにくいかもしれません。

でも、人間は人間のままじゃないですか。シンギュラリティ(技術特異点、コンピュータが人間の知能を上回る時点)が2045年に来るという未来予測がありますが、人間自身は間違いなく30年後も今とほとんど変わらない。身長が倍に伸びることはないでしょう? そういう変わらないヒューマンスケールを持った人間が、テックの中心にいるんです。このヒューマンスケールを忘れると、テックが起こす変化が逆にわからなくなると思う。

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