幼児教育の「親任せ」は格差を再生産するか 意欲、忍耐力、協調性は「就学前教育」が有効

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ただし、ヘックマンの主張への批判にあるように、子どもの教育においては、母親のみならず父親も重要であると考えるし、高学力と高収入は大事だが働きすぎの弊害も無視できないと考える。

日本の幼児教育は親任せでいいのか

ところで、幼児教育における親の負担額がどれくらいかご存じだろうか。保育所(保育園)での負担額は、市町村や親の収入の多寡、在籍年数によって異なる。

幼稚園は公立と私立があり、在籍人数で8割以上を占める私立幼稚園では、給食費や学校外活動費を合わせると、年額50万円前後になる。3年保育であれば、150万円前後となる計算だ。

なお、公立と私立では3年間でかなりの費用差がある。授業料に関しては、公立が3年間で約22万円、私立が約71万円と約3倍の差があり、制服・教科書、遠足費といったその他幼稚園教育費、給食費などにおいても、私立のほうが高くなっている。

3年間の総額を合計すると、公立で約69万円、私立で146万円と2倍以上の教育費用の差が発生している。

出所:文部科学省『平成24年度子供の学習費調査』2013年

幼稚園は義務教育ではないので、公立と私立の間でおよそ2倍の差があっても構わないという考え方もある。とはいえ、将来に幼稚園教育をも義務化、あるいは準義務化すべきという案が社会で合意を得て、それが成立する時代となれば、これほど大きな公立と私立の格差は公平性の見地から大きすぎると判断されるであろう。

日本でも、ようやく幼児教育や非認知能力の重要性が認識されるようになってきたが、日本の幼児教育への政府支出はほんの少額にすぎず、大半を親の負担に頼っている現状である。貧困家庭で親が十分に子どもを教育できる余裕がなければ、重要な幼児教育の機会が失われてしまう。

それに幼稚園と保育園という2つの幼児機関が併存しており、両者の目的は管理責任者が異なることもあって、表面上は異なっているという課題がある。すなわち幼稚園は文部科学省、保育園は厚生労働省の管轄である。

併存はよくないということで幼保一本化の道が模索されたがうまくいかず、妥協として認定こども園が創設されたが、これもまだ役割は小さいままである。

日本においても、アメリカのように研究が進み、研究結果に基づいた適切な幼児教育がなされることを期待したい。

橘木 俊詔 京都女子大学客員教授、京都大学名誉教授

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たちばなき としあき / Toshiaki Tachibanaki

1943年生まれ。小樽商科大学卒業、大阪大学大学院修士課程修了、ジョンズ・ホプキンス大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。大阪大学、京都大学教授、同志社大学特別客員教授を経て、現在、京都女子大学客員教授、京都大学名誉教授。その間、仏、米、英、独の大学や研究所で研究と教育に携わり、経済企画庁、日本銀行、財務省、経済産業省などの研究所で客員研究員等を兼務。元・日本経済学会会長。専攻は労働経済学、公共経済学。
編著を含めて著書は日本語・英語で100冊以上。日本語・英語・仏語の論文多数。著書に、『格差社会』(岩波新書)、『女女格差』(東洋経済新報社)、『「幸せ」の経済学』(岩波書店)ほか。

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