幼児教育の「親任せ」は格差を再生産するか

意欲、忍耐力、協調性は「就学前教育」が有効

非認知能力が幼児の段階でいかに重要であるかを積極的に主張しているのは、ジェームズ・ヘックマン『幼児教育の経済学』であり、中室牧子氏の『学力の経済学』にも適切な解説がある。

具体的にいえば、幼児教育を充実すれば幼児の非認知能力が高まり、それが将来のその人の学歴や稼得能力を高めることにつながる。高等教育に投資したときの収益よりも、就学前教育に投資した収益のほうが高い、という事実がヘックマンとクルーガーの分析によって明らかになったのである。

分析によると、年齢別に教育投資(経済学では人的資本投資と称する)から得られる収益率を計算すると、年齢の若い時期が最も収益率が高く、年齢を重ねることによって収益率が下降している。

縦軸は人的資本投資の収益率を表し、横軸は年齢を表す。生まれる前の人的資本への投資は、母親の健康や栄養などに対しての支出を指す(出所:James J. Heckman and Alan B. Krueger, Inequality in America: What Role for Human Capital Policies? MIT Press, 2003.)

40年間にわたる追跡調査でわかったこと

たとえばアメリカで有名な「ペリー幼稚園プログラム」によれば、3歳から4歳時にかけての教育投資の社会収益率は年率で7~10%の高さに達していると報告されている。

「ペリー幼稚園プログラム」とは、ランダムに選ばれたアフリカ系の貧困家庭の子ども58人の3歳、4歳児に、毎日非認知的特質を育てることに重点を置いた指導を午前中に行い、午後は週1度の家庭訪問という教育を30週間実施したものである。

一方で同じ境遇の子どもでありながらプログラムに参加しなかった65人の両者を、その後40年間も追跡してどういう人生を送ったかを調査した。

プログラムに参加した人のその後は、IQ、学歴、職業、所得、生活保護、犯罪などにおいて、参加しなかった人よりも恵まれた人生を送ったということが判明した。40年間にもわたっての追跡調査というアメリカならではの用意周到な実験の成果には敬意を払いたい。

なお、上記のようなヘックマンの主張に対しては批判もある。主なものは、標本数が少ないことによる結果の有効性の疑問や、母親の役割を重視しすぎているというもの、学力を高くして高い収入を稼ぐことは、白人の中・上流階級の発想にすぎないというものである。

筆者自身は、人生のスタート時点でハンディのある子どもが、できるだけ高い教育を受けて高い収入を得ることのできる職業に就けるような幼児教育の政策には賛成である。

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