元鹿島・岩政が語る「勝てるチーム」の思考法 「自分たちのサッカー」とは、一体何なのか

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自分たちのサッカー――。この言葉が一般的に注目を浴びたのは、2014年のブラジル・ワールドカップのときだろう。「自分たちのサッカーができれば勝てる」「自分たちのサッカーをさせてもらえなかった」といった代表選手のコメントがたびたび報道された。

実際には、その何年も前から、この言葉はサッカーの現場でよく聞かれている。だが、そもそもこの言葉が使われるようになったのは、「選手にとって便利だったからではないか」と岩政は考察する。

ひとり歩きを始めてしまった「便利」な言葉

例えば、試合前や試合後のインタビュー。「明日の試合はどのような試合にしたいですか?」「今日の試合はどのような試合でしたか?」と選手はよく聞かれる。チームの勝敗を左右しかねないチーム内の約束事や作戦を事細かに話すことができない選手たちからすると、「自分たちのサッカー」という言葉は、なんとなくのイメージを伝え、その場をやり過ごすことができる使い勝手のいいフレーズ、というわけだ。

だが、「『自分たちのサッカー』という言葉が、少しひとり歩きしているように思えてならない」と、岩政は警鐘を鳴らす。

岩政大樹(いわまさ・だいき)1982年、山口県生まれ。東京学芸大学卒。2004年に鹿島アントラーズに入団。中学・高校の数学の教員免許を持つ異色のJリーガーとしても話題となる。2007〜2009年、鹿島のJリーグ3連覇に貢献。2010年南アフリカW杯日本代表。現在は、東京ユナイテッドFC(関東サッカーリーグ1部)の選手兼コーチであり、東京大学運動会ア式蹴球部コーチも兼務(写真:ALE14/阿久津知宏)

どのチームにも、それぞれ得意なスタイルはあるものだ。パスを繋いで攻撃を組み立てるのが得意なチームもあれば、こぼれ球を拾うことでリズムを掴むチームもある。理想とするスタイルを監督が提示する場合もあるだろう。

だが、「自分たちのサッカー」へのこだわりが自らの足かせになってしまうこともある。

「得意なスタイルで結果を収めるようになると、それを『自分たちのサッカー』と捉えるチームがあります。勝っているときはそれでも構いません。しかし、このようなチームは、結果がついてこなくなったときに、『自分たちのサッカー』をすることが大切だと考えるようになっていくことがあります」

ここで、大きな間違いが起こる。「自分たちのサッカー」をすることが、一番重要なことだろうか? いや、サッカーが勝負事である以上、大切なのはいつだって勝利のはずだ。自分たちの得意なスタイルというものがあるとすれば、それは勝つための手段に過ぎない。

「『自分たちのサッカー』をするために全力を尽くすことと、勝つために全力を尽くすことは、似ているようで、実は違います」と岩政は言う。「なぜなら、『自分たちのサッカー』にこだわるうちに、相手がだんだん見えなくなります。相手のいるスポーツで、相手が見えなくなってしまっては勝つことはできません」。

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