埼玉・川越で250年以上続く老舗醤油屋の秘密 "神が宿る"蔵で生まれる「はつかり醤油」

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醤油蔵見学では貴重なもろみを試食することができる。しょっぱいのかと思いきや、フルーティーな酸味と甘味がさわやかで驚いた。後味には濃い旨みが舌の上に残る。もろみの仕上がりは桶ごとに異なるため、いくつかの桶をブレンドして一定の味を保っているという。どのもろみを混ぜるのか、いつ搾るのかのタイミングを見極めるのも、職人の腕の見せどころだ。

2倍の時間と手間暇をかけてつくる「はつかり醤油」

一言に醤油と言ってもさまざまな種類があるが、松本醤油商店でつくられる醤油のほとんどは、“再仕込み”という特殊な方法で風味豊かに仕上げた「はつかり醤油」だ。

機械で製造される一般的な醤油は、発酵の速度を早めて醸造期間を短くするため4~6か月ほどで完成するが、天然醸造にこだわる松本醤油商店では、もろみの発酵・熟成に1年間を費やす。さらに「はつかり醤油」は、この1年目にできた醤油を木桶に戻し、麹を入れてさらに1年間発酵・熟成させるという“再仕込み”を経てやっと完成する。つまり2倍の時間と材料、手間暇をかけてつくる贅沢な醤油なのだ。

「お客様からの支持が厚く、現在うちでつくっているお醤油の約8割が『はつかり醤油』です。再仕込みすることで、一年目にできるお醤油よりも甘味と旨味がうんと強いお醤油になります」。

「はつかり醤油」は浸けたり、かけたり、料理に幅広く使えるが、松本さんのおすすめの食べ方は、カブの浅漬け。はつかり醤油に薄く切ったカブを2時間ほど漬けるだけで、とても美味しいという。

「醤油は搾りたてが一番美味しく、徐々に風味が落ちていきます。だから大きなボトルで買うよりも、小さいものをこまめに買う方がいいですよ」と、松本さん。

醤油蔵に併設しているショップでは、はつかり醤油を使ったジェラートや炊き込みご飯の素、地元のラーメン店とコラボレーションした商品なども充実している。

約250年の歴史を持つ松本醤油商店。川越の街が大好きだと語る松本さんは、天保蔵がある限りここで醤油をつくり続けたいと話す。

「私の代は守り抜いたので、あとは次世代に渡すだけですけれど、なんといってもうちのお醤油づくりの中心は天保蔵なので、あの蔵がある限りはうちらしいやり方でお醤油をつくっていってほしい。よそに工場を建ててやっても意味がないですからね」。

歴史ある蔵とともに、小江戸・川越でしか作れない伝統の醤油づくりは引き継がれていく。

(Writer : ASAKO INOUE / Photographer : SATOSHI TACHIBANA)

SHUN GATE編集部

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