15%がうつ、がん遺族には心の治療が必要だ 苦しむ遺族が訪れる「遺族外来」の実態とは?

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――「新しい世界」への適応ととらえるのですね。

10年間、遺族外来を担当して感じるのは、「つらい別れがあっても、人間には適応して成長していく力がある」ということ。私も、たくさんの遺族や患者さんとの出会いで、成長させてもらっています。本当に大変な状況の遺族が来たとき、「今はつらいけどこのままじゃないから」と、明確に言えるようになったのはここ数年です。

17歳の息子を亡くしたあるお母さんは、「この壁を乗り越えられない」と言っていました。同じ立場の人としか話したくないと、ボランティアで病気の子の家族を支える活動を始めました。それでも傷が癒えなかったので、つらくなって外来を受診。うつ病を発症していました。ボランティアを辞めて治療しましたが、父を亡くしてまた体調を崩した。

それでも、彼女はよくなりました。そして、息子さんが好きだった服で作ったぬいぐるみを見せてくれました。思い出の布でぬいぐるみを作る会を始めたそうです。つらいながらも新しい生活を始めている一例です。

よかれと思った支援で、かえって傷つけることも

――身近な人は、遺族とどのように接すればいいのでしょうか。

遺族の訴えのうち、後悔に次いで多いのが、「周りの人の言動に傷つく」というもの。よかれと思っても、役に立たない支援というのも少なくありません。

たとえば、死別によるうつ病の状態がよくなってきたのに、近所の人に根掘り葉掘り聞かれ、ぶり返す患者さんもいます。「がん家系なの?」「検診に行かなかったの?」「あなたよりつらい人がいる」「私はわかる」などは、言ってはいけない言葉です。元気を出すよう鼓舞する、死別に触れずに陽気に振る舞うのも、遺族を傷つけるといわれています。もっとも、悪気があるわけではなく、知識の欠如だと思います。身近な人には、そばにいて話を聞いてほしいのです。

どのような援助がよかったのかを聞くと、「近所の人が煮物を作って持ってきてくれた」「『かける言葉がないのよ』と言ってくれた」というものがあります。私も、診察で遺族に「私の気持ちがわかりますか?」と聞かれた場合は、「わからない。だから話を聞いて少しでも理解に努めるのです」と返しています。「あなたから聞いたことしかわからない」と正直になるのも大事です。

遺族サポートの形は層をなしています。まず身近な人が耳を傾ける。さらに、「つらいならこういうところもあるよ」と遺族会や医療機関の情報を伝える。遺族会に行って、吐き出すのも効果的です。症状があれば、近くの医療機関に行く。さらに必要なら、遺族外来や、がん拠点病院にいる精神腫瘍科医(心の専門家)にかかるというステップがあります。

――先生も、同僚を亡くされたと伺いました。

今年、子育て中の同僚ががんで亡くなりました。彼女は生前、お子さんにも周囲にも、自分の命が限られていることを優しく伝えていました。だから、子どもたちも母親の死を十分に理解していたようです。立派な先生でした。

がんになった段階から、家族ケアが必要なんです。残される子どもにも、年齢に応じた言葉で「治らない病気になっている」と話しておいたほうがいいですね。大人がひそひそ話すと、自分が悪いことをしたと思ってしまう。話の輪に入れるようにするのが大事です。

国は、がん患者や家族の心のケアを進めるように言っていますが、実際は追いついていない。身近な人ができることや、社会的な資源として何が活用できるのかを、前もって知っていれば、実際に死別に直面したときの対応は違ってきます。これを伝えていきたいですね。

なかの かおり ジャーナリスト

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なかの かおり / Kaori Nakano

早稲田大学第一文学部卒。新聞社に20年余り勤め、地方支局や雑誌編集部を経て主に生活・労働・医療の取材を担当した。2016年に独立。ニュースサイト「ハフポスト」、日経BP社「日経DUAL」にて執筆。取材テーマは、がん・精神・周産期・難病・看護など医療全般。児童養護や教育のほか、福祉とカルチャーを組み合わせた試み、障害者や女性の働き方についても取材する。

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