15%がうつ、がん遺族には心の治療が必要だ

苦しむ遺族が訪れる「遺族外来」の実態とは?

――外来の様子を教えてください。

遺族外来には、年に平均して20~30人が受診します。そのうち、この病院(埼玉医大)に通っていた患者さんは1割ほどで、9割は院外からです。遠くは広島、三重などからも来ます。配偶者を亡くした人が6割と多く、4割が親や子どもを亡くした人です。なお、診察には医療保険が適用されます。

診察の流れは、こうです。初めに臨床心理士が話を聞いて、精神科の診断基準に沿って質問します。表情や服装などを観察しながら20~30分、話を聞き、次の予約を入れます。おカネや生活の悩みも多く、弁護士や専門家につなぐ場合もあります。

「つらいから話を聞いてほしい」という遺族が多いですね。周りの人に話せないことを話しにくる。「子どもを亡くしてつらいけれど、時間が経って言いにくい」「いつも同じ話と思われる」「守秘義務のある医療者がいい」と言われます。

大西 秀樹(おおにし ひでき)/1960年生まれ。精神科医。横浜市立大、神奈川県立がんセンターを経て現職。10月、東京都内で開かれる日本臨床死生学会大会長を務める。著書に『遺族外来―大切な人を失っても』(河出書房新社)(撮影:尾形文繁)

訴えの7割は、「治療はあれでよかったか」とか、「こう接すればよかった」とか、がんの治療に関する後悔です。私たちは、がんの患者さんに接している専門家ですから、治療の内容も理解しています。最期に苦痛が取れないとき、モルヒネや鎮静の薬を使うのですが、そのせいで死期が早まったと後悔している遺族に、「医学的にベストな選択でしたよ」と説明すると、楽になるそうです。

新聞で遺族外来が紹介されると、記事を握りしめてやってきた女性がいました。母を亡くして何をする気も起きず、電車に飛び込もうとして止められた。遺族外来という文字を見て、「これだ」と思ったそうです。話をよく聞くと、うつ病を発症していました。抗うつ剤がよく効いて元気になりました。

がんの患者さん向けの外来も併設していて、年に200人以上が受診します。患者の家族の外来もあります。病棟に出向いていくことも多くあります。

遺族の「悲しみ」を当然視するのは危険だ

――なぜ、遺族外来のような場が必要なのでしょうか。

大切な人を亡くした後、一時的に悲しみの反応が起きます。中には話すだけでよくなっていく遺族もいますが、大事なのは、うつ病の見極めです。うつ病は一般的に人口の3~7%がかかりますが、死別して1年で15%の遺族がかかるという調査があります。うつ病が認められ、どうにもならない苦しみから死にたいと思う人もいるので、治療が必要です。ただ、周りは「死別を経験したんだから当たり前」と症状を見過ごしてしまう。

また、死別のストレスから生活の質が下がり、自身の病気に気づかなかったり、心臓病で亡くなる率が高くなったりという問題もあります。回数や期間はそれぞれですが、継続して受診してもらい、「愛する人がいない新しい世界」に適応していくサポートをします。

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