さらに、新たな販路も開拓してきた。30年ほど前から、市場には中国や台湾産の型吹きの輸入品が数多く出回り、見た目が悪い(絵がシール)、音が悪い、雨が降ったら絵が消えてしまう、ガラスがもろいといった粗悪品も増加してきた。そうしたなかで、品質や見た目にこだわった江戸風鈴の評価が徐々に高まり、百貨店向けの販売なども拡大していった。
2代目の長男、裕氏と結婚して初めて風鈴の世界に入った惠美氏は、目を細めつつ当時を振り返る。「当時は、休日がない、夜は寝ない、朝起きればみんな起きているという生活。『なんでこんなに働くのだろう』と毎日驚いていました」。当時、儀治氏と裕氏は朝7時から吹く(風鈴を膨らませる)ために朝5時に起きて炉の準備をしていたそうだ。
こうして長年、個人事業者として風鈴の製作を手掛けてきた篠原風鈴本舗は、2005年に有限会社として法人改組、代表取締役に3代目の裕氏が就任。取締役として、裕氏の妻・惠美氏が就任した。
創業100年目に3代目が急死も、伝統を守り続ける
だが、創業100年目を迎えた2014年、前述のように3代目の裕氏が病気のため亡くなるという悲しい事態に見舞われた。64歳だった。
「夫のほかに職歴20年の職人が2人いたので何とか製作を続けることができました。娘が3人いますが、長女(由香利氏)と三女(久奈氏)は家業に入り、それぞれ絵付けをして、三女は製作もやっています。長女の夫(公孝氏)は、結婚を機に6年前から風鈴職人として働いており、現在は私のほか、男性職人3人、娘2人の計6名で頑張っています」(惠美氏)
こうして、何とか伝統を守り続けるなかで、思わぬ脚光を浴びる機会があった。昨年、とあるTVの人気番組で、風鈴の音に詳しい大学教授が1000種類のなかからオススメ風鈴7選を発表。そこで、篠原風鈴本舗の江戸風鈴が第1位として紹介されたのだ。こうしたメディアでの紹介も影響してか、江戸風鈴に興味を持つ若者や外国人観光客が増えているのだ。取材に訪れた6月某日も、篠原風鈴本舗には若い女性客の姿が目立った。
伝統を守り続けるだけでなく、時代の変化にもきちんと対応している。最近は、マンション世帯が増加するなどの生活様式の変化によって、「風鈴をどこに飾ればいいのかわからない」という相談を受けることが多い。そこで、風鈴だけでなくおしゃれなインテリア感覚の風鈴スタンドも販売することにした。国産鉄のスタンドや、静岡の伝統工芸である手作りの竹製スタンドなどもあり、都心の高級ショッピングモールにも納品しているという。さらに、軒先がない家の場合は、玄関を開けたときの風やクーラーの風で鳴らすなど、現代の住環境ならではの楽しみ方も教えてくれた。
江戸風鈴を守り続けていくうえでの課題も多い。
「テレビを見ていると、画面は江戸風鈴なのに、音は鉄風鈴になっていることがよくあり、違和感がある。皆さんに江戸風鈴をもっと知ってもらわなければと思っております。
時代の変化に伴って、風鈴の製作量は徐々に減ってはいますが、若い方や海外の方など新たに興味を持ってくれる方たちのためにも、販売だけではなく、製作体験、見学など江戸風鈴を知ってもらう機会を可能なかぎり増やすことにも力を入れていきたいと思います」(惠美氏)
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