次期iPhoneで問われる「ジョブズ後」の真価 クック流「文化革命」の行方
[サンフランシスコ 22日 ロイター] - 米フェイスブックのシェリル・サンドバーグ最高執行責任者(COO)は、同社のナンバーツーに就くことを決めた直後、自分と同じような立場の人を探して電話をかけた。情熱あふれた若き創業者の下で働くのはどういうことか知りたかったからだ。相手は、当時アップルのCOOだったティム・クック氏だった。
数時間に及んだ電話でサンドバーグ氏は、「トップがやりたがらない仕事を進める」のがCOOの役割であり、「その仕事は時間とともに変化する」とアドバイスをもらったという。
その後、2人は対照的な道を歩む。サンドバーグ氏がフェイスブックのCOOとして実績を重ねる一方、クック氏の仕事は劇的に変わった。故スティーブ・ジョブズ氏の後任としてアップルの最高経営責任者(CEO)になったクック氏こそ、誰かのアドバイスを必要としているのかもしれない。
クック新体制として2年が経ったアップルは来月、「iPhone(アイフォーン)」の新機種を発表するとみられている。クック氏にとっては真価が問われる時となるだろう。この2年間でアップルは、それまでとはかなり違う会社になった。もはや向こう気の強い業界の先駆者ではなく、成熟した巨大企業に変わった。最近はやや持ち直したものの、株価は今年に入って5%下落した。同じ時期にS&P総合500種指数は約15%上昇している。
こうした変調は、それまでの驚くべき飛躍を考えれば恐らく避けられなかったものだ。5年間で社員数は3倍、売上高は6倍、利益は12倍になり、150ドルだった株価は昨年秋には過去最高値705ドルまで上昇した。
調整型でバランスの取れたクック氏が、ジョブズ氏の築いたカルト的なアップルの文化をうまく作り変えられるかは分からない。クック氏の下でアップルは、「iPhone」や「iPad(アイパッド)」の製品ラインを抜かりなくコントロールし、引き続き莫大な利益を上げている。しかし、目玉となるような新製品はまだ1つも出していない。時計型端末やテレビも依然として観測の域にとどまったままだ。
一部には、クック氏が進める「文化革命」が、不可能と思えることに挑戦する社員の情熱に水を差しているのではないか、との懸念もある。
<クック流>
クック氏はワーカホリックとして知られ、私生活の多くは謎に包まれている。同氏を良く知る人たちからは、思慮深く、データを重視し、他人の意見に耳を傾け、少人数の時は冗談も言う経営者だとの声が聞かれる。
アップルの日々の業務でクック氏は、組織的かつ現実的な経営スタイルを確立した。前任者のやり方とはかなり違う。ジョブズ氏はiPhoneのソフトウエアに関する隔月の会議で細かい仕様まで逐一口をはさんだが、その会議も今は行われていない。こうした会議に詳しいある関係筋は「それはティムのスタイルとは全く異なる。彼は権限を委譲する」と語った。
とはいえ、クック氏にも厳しい一面はある。会議では、感情を読み取るのが難しいほど落ち着き払い、両手を固く握って静かに座っている。部下の報告にじっと耳を傾け、絶えず椅子を揺らしているが、会議参加者は感情の変化を読み取ろうと、その揺れのリズムに耳を凝らしているという。
クック流を支持する人たちは、同氏の整然としたやり方は、断固たる行動の妨げにはなっていないと指摘する。彼らが例として挙げるのは、アップルが独自開発した地図アプリの不具合が起こした一連の騒動での対応だ。
アップルは当初、地図アプリは「まだ始まったばかり」として事態の鎮静化を図ろうとした。しかしその裏では、クックCEOは同アプリの責任者でジョブズ氏の側近でもあったモバイルソフト部門のスコット・フォーストール氏を更迭し、インターネット部門を率いるエディ・キュー氏に問題の詳細な調査と解決方法の検討を命じた。
その後、地図アプリの不具合について顧客に謝罪したクック氏は、フォーストール氏を解雇し、ハードウエアのデザインを統括していたジョナサン・アイブ氏にソフトのデザインも担当させるよう組織変更を断行した。
それまで別々だったハード部門とソフト部門を実質的に結び付けた同組織変更について、アップルの社外取締役を務める米ウォルト・ディズニー
ただ、社員からは組織変更に一部で不満も出ており、会社側もそうした声には留意しているようだ。アップルは今年に入り、同社の心臓部の1つであるハードウェアエンジニアリング部門で従業員の士気に関する意識調査を実施している。
ロイターが入手した内部資料によると、ハードウェアエンジニアリング担当上級副社長のダン・リッチオ氏は2月、「当社のビジネスが成長して新たな課題に直面し続ける中、ハードウェアエンジニアリングでの仕事に関する皆の感じ方や経験を知るのはますます重要になっている」とのメールを部下たちに宛てて出した。
シリコンバレーの人材会社やアップルのライバル企業に転職した元社員の間では、アップル社員の履歴書がかつてないほど出回っているとの声も聞かれる。とりわけハードウェアエンジニアリング部門での転職活動が目立つという。アップルとつながりを持つヘッドハンターの1人は「アップルを辞めるとは思いもしなかったような人たちからのメッセージや電子メールであふれている」と語る。
ただ、最近の同社の従業員数の増加も考慮すれば、そうした人材流出が実際どの程度のものなのか正確に知ることは難しい。また、クック体制はジョブズ体制に比べて穏便になったと見られており、多くの従業員にとってそれは喜ばしい変化と受け止められている。
元アップル社員で現在は転職コンサルタントのベス・フォックス氏は「(アップルは)以前ほどクレージーな会社ではない」とし、自分の知っている人たちはアップルにとどまっていると指摘。 「彼らはティム(クックCEO)が好きだ。(変化の)プラス面に目を向けようとしている」と語った。
(原文執筆:Poornima Gupta and Peter Henderson、翻訳:宮井伸明、編集:本田ももこ)
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