太陽電池・世界大バトル! 台頭する中国・台湾、半導体・液晶での成功を三たび再現へ
海外上場で巨額調達 設備と材料に積極投資
なぜ中国勢が強気の設備増強とシリコン調達を実現できたのか。「われわれの最大の強みは、太陽電池だけを手掛けるピュアプレーヤーであること。だから迅速に調達と投資の判断ができる」(サンテックの施CEO)。彼らの原動力は、創業間もない時期に米国など海外市場へ上場し得た巨額の資本だ。サンテックは05年に米ナスダック市場に上場して約5億ドルを調達、すぐさま設備投資に充当した。これを皮切りに、06~07年は中国の太陽電池メーカーの上場ブームが起こった。
実はそれまで、太陽電池企業の上場は極めて少なかった。業界の中心を占めた日本の電機メーカーが、複数ある事業部門の一つとして太陽電池を手掛けてきたためだ。
「証券会社から、太陽電池事業を分社化して上場させないか、という提案を受けたことがある」。ある日系電機メーカーの関係者は打ち明ける。だがこのメーカーは太陽電池をグループ内に抱えることが企業競争力を高めると判断し、上場を見送っている。クリーンエネルギー銘柄の登場を待望していた世界の投資家は中国勢に群がるしかなかったのだ。
中国勢の増産や相次ぐ新規参入は、今の世界需要を牽引する欧州市場のみならず、将来的な自国市場の立ち上がりをも見据えたものだ。中国政府は世界最大のCO2排出国という汚名返上を目指し、全国の太陽光発電量を20年に13ギガワットと25倍増させる計画を打ち出している。中国は日系メーカーが狙う市場でもあるが、100社以上の現地メーカーがひしめく市場では勝算は未知数だ。
中国勢が規模拡大を追求する一方で、世界生産量の1割を占める台湾では新たな動きが出始めた。台湾最大手のモーテック・インダストリーは、08年から太陽電池の材料であるシリコンウエハの生産に乗り出した。
台南と中国に新設するラインでセル100メガワット相当のウエハを内製し、自社で必要なウエハの2割を賄う計画だ。「狙いはセル生産コストの削減。輸入一辺倒から一部自社生産にすることで、コストはざっと1割削減できる見込み」(モーテック社長室)という。
モーテックは計測機器メーカーから太陽電池メーカーに業態転換し、中国メーカーと同様に積極投資で成長を続けてきた。07年までの4年間で生産力は4倍に膨らみ、世界6位につけている。
だが今後は、欧州での固定買取価格引き下げなどで本格的な製品価格競争の時代が始まるとにらむ。「生き残りを決めるのはコスト競争力。そのためにウエハやインゴット(ウエハ状にスライスする前のシリコンの塊)など生産チェーンの川上部分も自社で手掛け、垂直統合型の太陽電池メーカーに脱皮する」(モーテック社長室)。
台湾勢は材料も生産 垂直統合型に転換へ
材料生産に乗り出すこの動きは、今後他の台湾メーカーにも広がりそうだ。というのも、3月に成立した馬英九政権は、半導体と液晶パネルに続く基幹産業として太陽電池を振興すると発表し、その施策として原材料のシリコンやインゴット、ウエハの開発生産に官民挙げて乗り出すことを表明したのだ。
台湾政府は半導体と液晶パネルでは、国内生産額をそれぞれ1兆台湾ドル(約3・6兆円)以上に拡大することに成功した。だが3番目の1兆ドル産業と位置づける太陽電池は、「シリコンの全量を輸入するなど、原材料の大半を輸入に依存しているのが成長のボトルネック」(台湾経済部の陳昭義・工業局長)。特に結晶系では生産コストに占めるシリコン価格の割合が6~7割と極めて高い。シリコンを安定的かつ低価格で国内調達できる環境を整備することが、産業育成のカギと判断した。
台湾にはシリコン生産のノウハウがないため、外資化学メーカーを誘致し、台湾への技術移転を進めることになる。すでに台湾の石油化学最大手・台湾プラスチックが、ノルウェーのシリコンメーカーと業務提携しシリコンの国内生産を始めることを決めている。