コロンバイン乱射事件、加害生徒の母の告白

「わかりやすい原因などない」という現実

最初は息子がやったことを信じられなかった。しかし時とともに明らかになることが増えるにつれ、その願いは無残にも消し飛んでいく。本人は否定していたタバコ、アルコール、ドラッグの形跡が見つかり、さらには自宅から使用済みの抗うつ剤まで発見された。実際に銃を買うため行動していたことも判明する。ディランは計画の発案者でこそなかったが、準備段階から長きにわたって参加していたのだ。

エリックとディランの動機

極めつけは、「地下室テープ」と呼ばれたビデオテープの存在である。乱射事件の数週間前から主犯であるエリックの家の地下室で撮影され、ディランとエリックがカメラに向かって語りかける様子が収められた映像だ。「忌まわしく、憎しみに満ちて、差別的で、人を侮辱するような言葉」を並べ立て、怒りをぶちまける、いまだかつて見たことのない息子の姿がそこには映されていた。その内容はビデオを観た捜査関係者にとっても衝撃的で、彼らは自宅に帰ると子ども部屋の検査を始めたという。

地下室テープは両親のディラン像をズタズタに引き裂いた。だが後から振り返ると、その瞬間は新たなスタート地点でもあったという。息子が自分の意思でやったはずがないという望みが完全に断たれたことで、「どうすれば防げたのか?」を考え始める踏ん切りがついたのだ。

エリックとディランはビデオ以外の方法でもそれぞれ記録を残していた。自身の内面や事件の動機について、日記や無数の端書きなどの形で書かれた多くの文章である。心理学や犯罪学の専門家、捜査関係者などの解釈も交えながら、著者がディランの動機について考えていくのが本書の後半部分だ。

ここで重要なのは、文章に綴られたエリックとディランの動機が、それぞれ異なっていたということ。エリックの動機は支配欲や自己顕示欲からくる殺戮衝動にあった。死後の診断は不可能であり、また18歳以下の未発達な脳のため正式な診断とはいえないが、エリックの日記からはサイコパスの傾向と特徴が読み取れると多くの専門家が断言した。ある精神分析医は日記を読んで、「ナルシスティックな尊大さや血に飢えた怒りにあふれている」と述べた。

一方、ディランの文章には「寂しさや憂うつや思い悩む気持ちと、愛を見つけることへの執着」ばかりが書かれていたという。彼の動機は、世の中への絶望からくる自殺願望にあった。

「ディランは自殺しようとしていた」という視点から見えてくるものがあるのではないか。そう語る著者は、多様な観点からディランが抱えていた心の闇、そしてその背景には何があったのかを丁寧に理解していこうとする。

ディランがどのようにして育ってきたのか、自分は親としてどのように向き合ってきたのかを、幼少期から事件直前のやりとりに至るまで、細かな描写とともに振り返る。専門家に話を聞き、ディランがうつ状態であったこと、その自殺願望を達成する手段として、殺人によって恐怖の感覚を麻痺させることを選んだのではないかという仮説に辿りつく。自殺予防のボランティアの活動に参加し、自殺によって我が子を失った親たちと交流する中で、子どもの自殺そのものへの理解を深めようとする。

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