なぜ人間はオカルトにハマってしまうのか? 『現代オカルトの根源』の著者、大田俊寛氏に聞く

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日本とスピリチュアル

――二元論的な世界観を持つ宗教は、世の中に数多く見られます。大田さんが以前に研究されていた「グノーシス主義」とも関係しているのでしょうか?

グノーシス主義というのは、紀元2世紀ごろ初期キリスト教の内部で発生した異端的宗派です。その神話では、物質世界を創造したとされる「デミウルゴス」という悪魔的存在と、「プレーローマ界」から降臨した光の神が対立するという二元論的世界観が、クリアに描かれています。グノーシス主義の思想は、西洋宗教史におけるオカルティズムの源流のひとつであり、確かにブラヴァツキーも、そこから大きな影響を受けています。

大田俊寛(おおた・としひろ)
埼玉大学非常勤講師
1974年生まれ。一橋大学社会学部卒業、東京大学大学院人文社会系研究科基礎文化研究専攻宗教学宗教史学専門分野博士課程修了。博士(文学)。専攻は宗教学。著書に『オウム真理教の精神史』『グノーシス主義の思想』(ともに春秋社)がある。

しかし、神智学に代表される近現代のオカルティズムにおいて特徴的なのは、「進化」という概念が重要な役割を果たしていることです。キリスト教が支配的であった近代以前の世界観においては、人間は「神に似たもの」として創造された地上の支配者と位置づけられ、人間と動物との間には絶対的な違いがあると考えられていました。

ところが、ダーウィンの進化論において「人間は動物から進化した」と唱えられたことにより、両者の違いは絶対的なものではなくなってしまった。また、その反面、「人間がもっと進化することができれば、神にもなれるのではないか」という発想が呼び込まれることになったのです。生身の人間が、進化して神になったり、退化して動物や悪魔になったりする。「進化」という概念を媒介することによって、従来の二元論がより具体化・先鋭化されたところに、現代オカルティズムの特色があると考えています。

――進化論の影響がオカルト思想にまで及んでいるとは、驚きです。日本では1970~80年代にオカルトブームがあり、現在もスピリチュアルがはやっています。日本にスピリチュアリズムが入ってきたのはいつ頃なのでしょうか?

本書でも触れたように、日本におけるスピリチュアリズムのパイオニアと見なされているのは、戦前に活躍した浅野和三郎という人物です。彼はもともと英文学者であり、その素養を生かして、世界のスピリチュアリズムの動向を積極的に日本に紹介したのですが、すでに彼の思想にも、神智学からの影響をうかがうことができます。

浅野は1923年に「心霊科学研究会」を設立し、その組織を中心として、日本社会にスピリチュアリズムの考え方が普及していきました。ちなみに、「スピリチュアリル・カウンセラー」として有名な江原啓之氏も、その系統に属する人物ですね。

1960年代から80年代にかけて急成長した宗教団体のひとつに、高橋信次という人物が設立した「GLA」があります。この団体の教義は、スピリチュアリズムと神智学を融合させることによって成り立っていました。オウム真理教を創始した麻原彰晃は、若い頃、高橋信次の著作を愛読していたことで知られています。

また、GLAが発展する際には、『幻魔大戦』で知られるSF作家の平井和正が関与していたと言われています。超能力者として覚醒した神的人間と、「幻魔」と呼ばれる悪魔的勢力が対決するという物語の構図は、主に平井氏の作品を通して、サブカルチャーの領域にも普及していきました。

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