なぜ人間はオカルトにハマってしまうのか? 『現代オカルトの根源』の著者、大田俊寛氏に聞く

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霊性進化論とエヴァンゲリオン

――最初に、ビジネスの世界だけでなく、サブカルチャーの世界にもオカルト思想の影響が見られるとおっしゃいましたが、具体的にはどのような作品でしょう?

私は、SFやアニメについてそれほど詳しくないのですが、やはり『幻魔大戦』の影響力は大きかったと思います。私も中学生の頃に小説版を熟読し、作品の持つ独特の雰囲気に魅了された記憶があります。無理もないことですが、その世界観がどのような思想に由来するのか、当時の私にはまったくわからなかった。

先ほど述べたとおり、『幻魔大戦』の物語は、超能力に目覚めた少年少女が「幻魔」と戦うというものです。私を含め、1970~80年代の子どもたちは、スプーン曲げで一世を風靡したユリ・ゲラーなどの影響もあり、何らかの仕方で超能力は実在するのだろうと思い込まされていたところがあります。

――私も1970年代生まれですが、小学生の頃に超能力や『ノストラダムスの大予言』などがテレビで大々的に放送され、恐怖を感じたのを覚えています。より最近の作品ではどうでしょうか?

超能力に覚醒した神的人間が悪魔的勢力と対決する、あるいは、霊的に進化した新しい人類が旧い人類を淘汰する、という物語であれば、それこそ数え切れないほど存在していますよね。有名な作品で言えば、『機動戦士ガンダム』や『AKIRA』とか、『鋼の錬金術師』とか。

私は大学生の頃、『ふしぎの海のナディア』や『新世紀エヴァンゲリオン』など、庵野秀明監督のアニメ作品のファンになったのですが、今から考えればこれらの作品も、霊性進化論を基調とした物語だったと思います。『ナディア』は、高度な知性を備えた「アトランティス人」という宇宙人がひそかに地球を支配しており、人工進化によって地球人を創造したという内容であり、本書で触れた霊性進化論者のひとり、エドガー・ケイシーの歴史観ときわめて似通った物語でした。

また『エヴァンゲリオン』は、「ゼーレ」と呼ばれる秘密結社が地球を支配しており、「人類補完計画」によって人間を神的存在に人工進化させようとする物語ですね。人類を進化させるためには、「使徒」を含め、旧人類をすべて粛清しなければならない。その計画をめぐって主人公たちの抱く葛藤が、物語の主題に据えられているわけです。

このように霊性進化論は、サブカルチャーの領域にも広く浸透しており、私たち自身も知らず知らずのうちに、その種の世界観に深く魅了されているところがあります。同時に、アニメやSFの物語では、そうした思想に由来する革命論や粛清論の危険性に対する警鐘が鳴らされてもいるわけです。今後、サブカルチャー批評の分野においても、霊性進化論という思想潮流の存在が正しく認識されるようになればよいのですが。

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