「田植え」はこれから不要になるかもしれない コマツ・坂根正弘相談役インタビュー<後編>

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規制や財政によって医療業界を守ってきた結果、世界で後れを取るのは必然なんです。

「誰かが率先して、小さくても成功例をつくって普及させるしかない」と坂根氏は言う。コマツに続く「志のある大企業」は現れるだろうか(撮影:今井康一)

手厚く守られてきた業界はもう一度チャレンジを

国民が知るべき本質的な問題は、農業にしても医療にしても、国によって手厚く守られてきた業界は、国際的な競争力を失ってしまうということです。しかし、農業だって林業だってもう一度チャレンジしたら、日本は相当なところまで力を発揮できるし、医療だってこの国の本質的問題点に国民が気付いて声を上げるようになれば必ず復活できます。

中原:これまでの話を聞いていて、坂根さんが政党をつくって活動したほうがいいんじゃないかと、ある程度の勢力は取れるんじゃないかと。坂根さんが政治家やったほうが日本は変わるんじゃないかと思うのですが……。

坂根:現状を変えるには何をしたらいいかわかっていても、肝心のこの国を引っ張っている政治家や官僚、大手企業などの中に、東京一極集中でいい思いをしている人たちが多いからなのか、地方創生もなかなか国民レベルの話に向かっていかないけど、それでもできることからやらないといけません。コマツも自社の技術を生かし石川の農業の生産性を向上させたように一つひとつ成功事例を増やしていきます。

何事も皆が一斉に動き出すことはありません。誰かが率先して、小さくても成功例をつくり波及させるしかないのです。私の後を引き継いだコマツの野路國夫会長が私以上に全力投球でライフワークとして地方創生のリーダー役を果たしてくれていますので心強いです。

インタビューを終えて
「地方で幸せが循環する」。コマツの経営を伺って思ったのは、大企業の経営者はいま一度、地方に目を向けた経営、雇用を考えるべき、ということだ。坂根氏は本社移転の効果について「うちが地方の活性化に失敗したら、追随するところはなくなるだろう」と述べている。コマツはそれほどまでに強い「使命感」をもって経営に当たっている。
私は、収益だけを追い求めて工場の海外移転を進める企業より、国内で踏ん張って雇用を守ろうとするコマツに、一人の日本国民として頑張ってもらいたいと心から思う。これからは「利益の最大化」を追求する企業より「国の利益」「国民の利益」を大事にする会社に多くのファンができる時代が来るはずだ。「コマツ、がんばれ!」と声を大にして応援したい。
中原 圭介 経営コンサルタント、経済アナリスト

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なかはら けいすけ / Keisuke Nakahara

経営・金融のコンサルティング会社「アセットベストパートナーズ株式会社」の経営アドバイザー・経済アナリストとして活動。「総合科学研究機構」の特任研究員も兼ねる。企業・金融機関への助言・提案を行う傍ら、執筆・セミナーなどで経営教育・経済教育の普及に努めている。経済や経営だけでなく、歴史や哲学、自然科学など、幅広い視点から経済や消費の動向を分析しており、その予測の正確さには定評がある。「もっとも予測が当たる経済アナリスト」として評価が高く、ファンも多い。
主な著書に『AI×人口減少』『これから日本で起こること』(ともに東洋経済新報社)、『日本の国難』『お金の神様』(ともに講談社)、『ビジネスで使える経済予測入門』『シェール革命後の世界勢力図』(ともにダイヤモンド社)などがある。東洋経済オンラインで『中原圭介の未来予想図』、マネー現代で『経済ニュースの正しい読み方』、ヤフーで『経済の視点から日本の将来を考える』を好評連載中。公式サイトはこちら

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