──つねに未来を見る……。
目的は未来に向けつくり出されているから、これからのことをもっぱら考える。これからどうしたいのかと。これに対し、トラウマはないとはっきり書いてある。トラウマは意に反して強いられたときに心を正常に保てないことだとされる。たとえばアドラーは第1次世界大戦に従軍している。殺し合いの状況の中で心を病んだ戦争神経症の兵士の治療を経験している。
──戦場に復帰させるために。
復帰させる苦悩を著作に書きつつ、同じ経験をしたからといって、誰もが同じようになるわけでもないと強調する。ある決定的な影響を受けたとしても、人間は前に進めないような脆弱な存在ではなく、変わりうると、論を進める。
人間はつねに変わりうる
──変わりうる?
人間はつねに変わりうるというのが大前提だ。過去にあったことが今の自分を決めるとするのは決定論の立場。そうなら、治療は今のあり方ではないようにすることであり、ありえないことになる。
──教育論にも一家言あり。
普通は問題行動があるから問題児なのだが、アドラーの著作では「教育困難な子ども」と訳すのが適切と言える。子どもによって問題を分析しても意味がない。そうしたのは親や教師だという視点に立たないと何も変わらない。相手は変えられなくても、自分なら変えられる。自分を変えるところから始められることに気づけば、対人関係のあり方を変える面でも大きなきっかけになると考えている。
──人生論、価値論にも踏み込む。
心理学者を含め科学者は価値を論じてはいけない、それでは科学ではないとする人は多い。
アドラーは「価値の心理学」と言っているぐらいで、まさに価値観なくしては語れない。特にその「共同体感覚」という考え方には当時から多くの人が反発した。第1次世界大戦という現実を目の当たりにしていながら、人は憎み合う存在ではなく、互いに仲間なのだという立場に立った。
自分の置かれている現状の分析に終始する心理学ではなく、本来こうあるべきという理想も論じるアドラー心理学を学べば、生き方まで変わっていく。それだけでも大いに意味がある。
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