保育園業界を蝕む「助成金不正受給」の実態 企業主導型保育の穴狙い、助成金ビジネスか

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A社の営業担当者は、こう持ちかけたという。

「現在の保育所を廃止して、保育士、園児をすべて新しい園に移してください。当社から貴園に委託費をお支払い致します。これからは経営を心配することなく保育に専念できます」

企業主導型保育事業の助成金額は、たとえば東京23区内の定員12人の施設(保育士比率50%、11時間開所)であれば、一施設あたり年間約2600万円が基本額として支給され、加えて0歳児保育を行えば一人あたり月約30万円、病児保育で年約534万円、賃借料で年約228万円などのさまざまな加算がある。開園に際しての内装工事費用も、かかる費用の3/4(最大8000万円)が助成される。こうした助成金の原資は、企業が厚生年金から支払う拠出金である。

こうした莫大な助成金が、1園ごとにA社の懐に入り、その中から園に委託費を支払うことになる。認可外保育園に補助金収入はほとんどない。月ごとに収入も一定ではない。A社から安定的に委託費が支払われるだけでもうまみのある話だ。

結局、この地で長くやってきたある認可外保育園(以下、B園と呼ぶ)は、A社からの提案を受け入れて傘下に入ることにした。話に乗ったのは、周囲の競争環境も厳しく「このままでは潰れる」と思ったためだ(B園関係者)。2016年10月にはA社が用意した物件で新B園が企業主導型保育施設としてオープン。A社からの委託費の支払いが遅れたり、A社の取り分が助成金額の5割に及んだ時期もあったようだが、それでも経営破綻は免れることができた。

2016年11月末には、旧B園の利用者がゼロに

企業主導型保育を開始するうえで、B園は保護者に対して「勤務先に企業主導型保育の利用申請書を提出してください」と伝えたという。保護者の勤務先が申請書にハンコを押せば、その企業はA社と契約を結ぶことになる。B園の利用者の場合は、全12人中11人の保護者の勤務先がこの契約を結んでいるという。

企業主導型の新B園を利用した場合、保護者の負担金は、園児の年齢を問わず一律1時間50円(延長・夜間料金を除く)。保護者の勤務先と契約を結んだ場合、保護者の勤務先の選択によってこの一部をさらに負担することもある。勤務先が契約をしなかった場合でも、定員の半数まで受け入れ可能な「地域枠」がある。多くの保護者にとって認可園よりも安く利用することができるため、利用者の引き留めや園児の新規募集に大きなメリットがある。

ただ、見過ごせない点もある。近隣住民によれば、B園が企業主導型保育施設を新設してから、旧B園(認可外)には人っ子ひとりいない状態だというのだ。B園によれば、ほとんどの園児が10月に開園した新B園(企業主導型)に移り、11月末をもって旧B園の利用者はゼロ人になったという。実際、筆者が5月の平日昼間に現地に足を運んだ際も、旧園がもぬけの殻状態であることがうかがえた。

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