(第4回)どうすればマネジメントの質が上がるのか
國貞克則
●人を大切にする心
前回のコラムでは素敵な上司に共通することについて書きました。今回は質の高いマネジャーに共通する根源的な要素について述べることにします。「ホンダカーズ中央神奈川」という自動車販売会社があります。ホンダ系のディーラーで11年連続お客様満足度No.1の会社です。この会社のショールームの2階には、本格的なお茶室がしつらえてあります。それは、従業員にお茶の稽古をさせて、その礼儀作法を自動車販売の接客業務に活かそうというような姑息な考え方からではありません。この会社の相澤賢二会長が「せっかく縁があってうちの会社に入社してきてくれたのだから、この子たちを立派なお嫁さんになるように修業させて会社を卒業させてあげたい」と思っているからなのです。
相澤会長の心の底には、強い「人への思いやり」の気持ちがあります。彼の「思いやり」が従業員に伝わり、従業員もまた相澤会長と同じ気持ちでお客様に接する。そして、その従業員の思いやりのある行動にお客様が感動し売上げが伸びていくのです。
もう一人ご紹介しましょう。新宿・池袋を中心にラーメン店をチェーン展開している「福しん」という会社です。高橋会長は若い頃からラーメン屋で修業し、自分のお店を持ち、そしてチェーン展開までしてこられた方です。ですから、彼は飲食業で働く人たちの悲哀をよく知っています。飲食業で働く人たちは、一般の人が家族で団欒する時間に働き、それも空調もない暑い厨房で働く。そして世間に出れば「水商売」などと言われ下に見られる。高橋会長の心の中には「こんな飲食業で働く人に、生きる価値、生きる喜びを感じさせてあげたい」という気持ちがあります。
彼が書いた経営信条の中にこんなくだりがあります。「本来の自分を発見し、感動し、新しい可能性に挑戦して、忘れかけた潜在能力、気づかなかった自分の能力に目覚めさせ、生きることの素晴らしさに気づく人々の企業をめざす。」
組織のトップがこんな考えを持っている会社がどうなるか。「福しん」というラーメン屋さんは、カウンター式の小さなお店が多いのですが、カウンターのお客様が座る後ろの壁の腰の辺りに、高さ10cmくらいの横に長い鏡が貼ってあります。カウンターの下には荷物置きがあるのですが、お客様が忘れていく荷物がカウンターの中からは見えない。だから鏡が貼ってあるのです。また、従業員が温泉に社員旅行に行くと、旅館でもらえるタオルを家に持って帰って洗濯し、それを自分が働くお店に積んでおく。雨が降ったときはそのタオルでお客様の肩を拭いてあげる。
こんなアイデアが、パートのおばちゃんから自然にドンドン出てくるのです。提案制度を作って無理やりにアイデアを出させるのではありません。高橋会長の従業員を大切にする気持ちに、従業員が自然と応えるのです。
心理学に「返報性」という言葉があります。お返しのルールです。お土産をもらったらお土産を返そうと思う。優しくしてもらったら優しくして返す。冷たくされたら冷たくする。人間の行動は、地理的条件や経済の発展程度、政治体制などの影響を受けます。しかし、時代・文化・国境を越えて、地球上のすべての民族に共通する人間の行動原理がこの「返報性」なのです。人は自分を大切にしてくれる人や組織を、また大切にしようとするのです。
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