藤野:日本でも「伊藤レポート」が公表されたことがきっかけで、スチュワードシップコードやROE(株主資本利益率)に対する意識が高まり、企業の持続的成長に対する考え方が徐々に浸透していますが、それでも海外の投資家からすれば、スピードが遅いと思われているのも事実です。だから、より速めるためにも、企業と投資家の対話が、これからさらに求められると思います。
相談役や顧問は何をしているのか、情報開示を
中野:1つ、問題なのは日本企業の取締役です。企業経営者という意識が薄いように思えます。さらに顧問とか相談役という、ちょっと意味のわからない存在がいて、院政を敷いたりもしています。しかも、そこに結構なおカネが払われている。スチュワードシップコードやROEに対する意識を高めることも大事ですが、それ以前に、日本企業の旧式の組織構造を変えていくことも必要ではないでしょうか。
藤野:かつて経団連(日本経済団体連合会)は反対していましたが、政府は2018年初頭をめどに、上場企業の社長、最高経営責任者(CEO)が相談役や顧問に就任した場合、氏名や地位、業務内容を開示することを、東京証券取引所のルールに盛り込む方針です。
中野:相談役や顧問って、英語に翻訳しにくい。だから、海外の投資家にとっては、その役割、存在意義のようなものが見えにくいところがあります。
渋澤:相談役にしても顧問にしても、会社の事業展開に必要であれば在任を否定することはないですが、せめて今回、政府が言及したように、役割などについて情報開示させたほうが良いでしょうね。
藤野:まずは情報を開示して、ちゃんと相談役なり、顧問なりの仕事をしているのだということを示す必要があります。相談役や顧問って、取締役の立場でもないのに、なぜか隠然たる権力を持っていて、会社の経営を左右している。これ、株主の立場から見ると、何ともおかしな話であるわけです。会社の最高意思決定機関は株主総会なのですが、どうもそれとは別のところで会社の意思決定が行われているフシがあります。それがもし相談役や顧問によるものだとしたら、それはおかしいわけで、だからこそ、相談役や顧問がどのような仕事をしているのかを開示させる。これは至極まっとうな議論です。
中野:でも、どうして日本の企業って、会長や社長を降りた後、さらに相談役や顧問などというポジションを設けてまで、元会長や元社長を厚遇しようとするのでしょうか。いくら考えてもまったく意味がわからない。
藤野:それは、会長、社長時代に報酬が高いと、世の批判を集めやすいからです。だから本来、社長のときに得るべき報酬額を、顧問とか相談役というポジションを設けることによって、薄く長く取ろうということなのではないでしょうか。
渋澤:相談役や顧問として、仕事に見合った適正な報酬を得るのは良いでしょう。それは一応認めるとして、ただ秘書や部下、あるいは個室や車などを持つことはご遠慮願いたいですね。そこにおカネを払うくらいなら、ほかにも投資すべきところはたくさんあります。
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