「それからな、イタコクにはもう1つあだ名がありました。北京原人と呼ばれとったんよ。さらにそれがなまって途中から『ペテン』言われるようになったんや。失礼やな、これ」
「ギャハハ!」
「それでな、伊田故九社の出版物はペテン文庫って言うんよ」
「ガハハハ!」
教室はもう漫才の会場のようだ
ドッカンドッカン受ける。授業が始まったまだ5分程度だが、生徒たちは完全に松本教諭のペースに乗せられている。教室はもう漫才の会場のような雰囲気だ。
「原稿用紙をな、2回半分に折ると、ちょうど文庫本の大きさになる。そこに先生みたいな『作家』が、小説を書く。それで編集長がすごい男やねん。原稿を渡すとな、『少々お待ちください』と言うて、3日後くらいにどうなって返ってくるかというと……、こういう本になってくるんや」
段ボール箱の中から、『空白』というタイトルの、完璧な文庫本を取り出した。
「えーーー!」
生徒たちはその完成度の高さに驚きの声を上げる。
「オレ知ってます! 『空白』」
「知ってるわけがない。だって作者は松本浩典やもん。世界に1冊しかないからな。このカバーの裏を見ると、阪神タイガースカレンダーや。中、原稿用紙でな、ここに製本用ののりを付けて製本して、表紙付けて、なんとな、ご丁寧にこんなひもまで付いて。本物みたいやろ。帯まで付いて登場したときには、先生も何分爆笑していたことか。奥付に昭和51年て書いてますわ。値段もちゃんと付いてんねんけど。たとえば『空白』やったら120円」
「買いま〜す!」
「絶対売らない!」
中学生時代の松本教諭とその仲間たちが、夢中になって小説を書き、製本し、回し読みしていた光景を生き生きと語る。
「何が言いたいか言うと、本を読むのも面白いけど、自分らで本を作るのも楽しいでということや。パソコンのゲームで怪物と戦うのもそら楽しいけど。しかもな、残しておくとええ記念になる。今使っている読書ノートも簡単に捨てないでほしいな。失敗したこともな、時間が経つといい思い出になるから」
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