年収200万円、32歳男性を苦しめる「官製貧困」 「生活困窮者自立支援制度」相談支援員の悩み

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しかし、これでは、公私の区別がつかなくなるのではないか。私がそう尋ねると、ソウタさんは「のめり込みすぎるのはよくないとわかっています。でも、この仕事にはゴールがないなとも思うんです」と言った。条件のよい就職先が見つかるなどのまれなケースを除き、相談者の貧困状態や悩みは24時間続いており、業務時間外だからシャットアウトという線引きは、自分には難しいのだという。

悩んだ末、ソウタさんは、おカネは貸さない、生活保護の不正受給など制度の悪用には加担しないといった約束を自身に課したうえで、いわゆる「共依存関係」に陥らないよう気をつけながら、相談者との交流を続けている。

「中でも、自分と似たような恵まれない子ども時代を送った人を、見過ごすことができないみたいです」

ソウタさんがそれまで避けてきた話題に、さりげなく触れた。言葉少なに振り返った彼の生い立ちは壮絶だった。

親戚の家を転々とし、虐待も受けた

父親の失業をきっかけに両親は離婚。親戚の家を転々とする中で、顔や身体に傷跡が残るような虐待も受けた。彼は多くを語らないが、高校からは生活費も学費もすべて自分で稼がなければならず、賄いがつく弁当店や居酒屋、ファミレスを中心に、時には住み込み仕事も含め、昼夜を問わず、あらゆるアルバイトをこなした。1週間の食費5000円という離れ業ができるのは、この頃に飲食店で覚えた格安レシピが役に立っている。

「荒れた時期もありましたが、大学には進学したかったので、友達と遊ぶのは受験までと決めていました」と言いながら見せてくれた10代半ばの写真。髪の色はど派手で、顔には複数のピアスがついていて、人好きのする笑顔を絶やさない現在のソウタさんとは別人にしか見えない。当時は理系の大学への進学を希望しており、成績は合格水準に達していたが、奨学金の仕組みを詳しく知らなかったという。結局、第1希望は断念、代わりに通信制の福祉系大学に進み、精神保健福祉士の資格を取った。

塾にも行けず、勉強の時間もろくに取れない逆境の下、いくら荒れても決して一線は超えることなく、目標を果たす――。頭がよく、どこか冷めたところのある少年像と、プライベートな時間を削ってまでも相談者とかかわろうとする熱血ぶりは、アンバランスにも見え、なぜか私を不安にさせる。

ソウタさんは人並み外れた意志の力で、貧困の連鎖を断ち切ったかに見えた。しかし、今再び、国と自治体が生み出す貧困に足をすくわれようとしている。現在の年収や両親の離婚のことを考えると、結婚をして子どもを持つことは「怖い」という。

生活困窮者自立支援制度の相談支援員を続ける以上、「明るい未来はひとつもない」と断言する。一方で、いつか「自分の家を持つのが夢」と語った。幼い頃から、親戚の家などをたらい回しにされ、住み込みのアルバイトを繰り返し、最近もまた引っ越しを余儀なくされた。とにかく、ひとところに落ち着いて生活した記憶がないのだ。夢を実現するため、今は毎月3万円を貯金することを目標にしている。もちろん、できる月もあれば、できない月もある。

「アパートでも、戸建てでも、田舎に自分で建ててもいい。将来、安心して暮らし続けることができる自分の家を持ちたい」。その希望だけがソウタさんを支えている。

本連載「ボクらは「貧困強制社会」を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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