「獺祭」を日本一にした"掟破り"PDCAの秘密 四季醸造やクラウド導入には深いワケがある

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また、当社の12階建ての本蔵の1フロアには、酒造りの工程のあらゆるデータを収集し、分析する「分析室」があります。各工程の温度や湿度、アルコール度数などさまざまなデータを一括管理しています。こうした毎日のデータの積み重ねがあるから、獺祭の品質を一定に保つことができる。だから、タンクが違っても、味や品質にぶれが少ないのです。

クラウドシステムの活用で酒米を増産

『勝ち続ける「仕組み」をつくる 獺祭の口ぐせ』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

もうひとつ、常識破りと言われるものがあります。それがクラウドシステムの活用です。

旭酒造では2015年から富士通株式会社と組んで、農業クラウドシステム「Akisai」を導入、原料となる山田錦の栽培情報のデータ化に取り組んでいます。田んぼのわきにセンサーを設置して、温度、湿度、日照時間、土中の湿度などのデータを収集し、山田錦の栽培に利用しています。2軒の農家でスタートしたシステムは、現在20軒の農家で稼働しています。

狙いは2つ。1つ目は、データを収集することで、品質の高い山田錦の生産に役立てること。山田錦の質が高くなれば、獺祭の品質も高くなります。2つ目は、山田錦をつくったことのない農家に技術を提供するためです。当時は山田錦が不足していたので、迷っている農家の背中を押し、山田錦の生産量を増やそうと考えたのです。

こうした取り組みは、農家のみなさんにも歓迎していただきました。ナショナルブランドの富士通と組んで山田錦の栽培を積極的にサポートすることで、「頑張って作っても買ってくれないかもしれない」という疑心暗鬼が薄れ、私たちの本気度を感じ取っていただいたようです。山田錦の調達が難しい状況も変わりました。一時30万俵まで落ち込んだ山田錦の生産量は2016年時点で62万俵へと大幅に増加したのです。「獺祭」を安定的に届けられる量にまで拡大したのです。

私たちにできるのは、ちょっとでもおいしい酒を提供し続けること、それだけです。これからもお客様においしい酒を飲んでもらうことを第一に、変革を続けていきたいと考えています。

(構成:高橋 一喜)

桜井 博志 旭酒造会長

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さくらい ひろし

1950年、山口県周東町(現岩国市)生まれ。家業である旭酒造は、江戸時代の1770年創業。松山商科大学(現松山大学)卒業後、西宮酒造(現日本盛)での修業を経て、76年に旭酒造に入社するも、酒造りの方向性や経営をめぐって父と対立して退社。一時、石材卸業会社を設立し、年商2億円まで育成したが、父の急逝を受けて84年に家業に戻る。研究を重ねて純米大吟醸「獺祭」を開発、業界でも珍しい四季醸造や12階建ての本蔵ビル建設など、「うまい酒」造りの仕組み化を進めている。2017年にはパリに世界的な料理人であるジョエル・ロブション氏と共同で獺祭が飲めるレストラン、バー、ショップやカフェなどからなる複合店舗「ダッサイ・パー・ジョエルロブション」を開店予定。

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