「獺祭」を日本一にした"掟破り"PDCAの秘密 四季醸造やクラウド導入には深いワケがある

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「大量生産をすると味が落ちるのでは?」というイメージを持つ人は少なくないでしょう。実際、日本酒造りにも、そのような一面があります。

たとえば、小さな鍋でつくるスープとホテルの宴会用の巨大な鍋でつくるスープとでは、やはり味が異なります。しかし、これまで規模を拡大してきた日本酒メーカーは、これと同じことをしてしまいました。酒の仕込みをするタンクを巨大なものにして、大量生産ができるようにしたのです。

しかし、日本酒は発酵の過程が複雑なので、単純に大型化すると味が安定しません。発酵の成否を握る麴(こうじ)は生き物なので、人間が丁寧にコントロールしないとうまくいかないのです。

私たちも本蔵が完成したことで、生産能力が最大でこれまでの3倍まで引き上げられることになりました。しかし、建物のスケールと生産量は大きくなったけれど、一つひとつの仕込みのスケールは変えていません。

獺祭の場合は、本蔵が大きくなり、生産量も増えましたが、仕込み用のタンクは3000リットルと5000リットルという地酒業界でも小さい部類のタンクを使っています。実は、これだけの量の酒の味と質を、社員たちがコントロールしているところにわれわれの強みがあるのです。

圧倒的な量のPDCAをまわす

なぜそれが可能になるのか。それは、われわれが考える酒造りのPDCAと関係しているかもしれません。

旭酒造の酒造りは、さまざまな面で一般的なものとはちょっと違います。

たとえば日々のスケジュール。まだ闇に包まれている夜明け前。白い息を吐きながら杜氏たち職人が酒を仕込んでいる――。これが、みなさんが酒造りに抱いているイメージではないでしょうか。

伝統的な酒蔵では、凍てつく真冬の早朝5~6時頃から酒の仕込みを始めます。そして、1日かけてタンク1本分のもろみ(発酵中の液体のこと)を仕込む(日仕舞い)、あるいは、2日に1本のペースでもろみを仕込む(半仕舞い)。これが杜氏たちの日課です。

一方の当社は、それとはかなり違います。かつて旭酒造は経営危機に瀕したのが原因で杜氏に逃げられ、やむをえず社員と一緒に酒造りをせざるをえない時代がありました。売れずに残っている在庫がたくさんあったので、一般的には1日かけてタンク1本分のもろみを仕込むところ、週にタンク1本分のもろみを仕込むという遅いペースでした。

作業時間は、午前8時半から午後5時半まで。普通の会社員と大差のないスケジュールと、これも業界の慣習とは大違い。このようなゆったりしたペースで酒を造っていることには、実はメリットもありました。もろみの仕込みでうまくいかない部分があったら、原因を分析し、翌週の仕込みに反映させることができたのです。

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