日本の科学研究の実力が急速に低下している 政府支出を評価する「独立財政機関」の設置を

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むろん、必要な基礎研究を定義するのは容易なことではないが、山下特任教授は「科学者が関与する余地は大きい」とし、「たとえば、日本の最大の課題である社会保障関係費の削減(薬剤費など医療費の削減など)にも物理学が貢献できる部分があるといわれているが、学際的な研究は進んでいない部分があり、依然として分断されている面がある」と話す。

政府は財政健全化を進める一方で毎年の補正予算で経済対策を行っている。当初予算では政策経費の歳出を圧縮するものの、補正予算では「インフラ投資」などが積極化しやすい。経済対策では経済効果がわかりやすい「インフラ投資」にどうしても傾斜してしまう構図であり、場当たり的な面がある。

複数年度における長期的な計画として参考になる例に、EU(欧州連合)が進めている"Horizon 2020"がある。これはEU内を中心に2014~2020年の7年間を対象に総額800億ユーロが投じられる研究・イノベーション計画である。イノベーションに重きが置かれ、「ハイリスク・ハイリウォード」の研究を支援し、基礎研究から人口構造の変化などの社会科学的な研究まで包括的に計画されている。

経済対策によって箱モノ投資やバラマキに終わってしまうのではなく、このような長期的な視点の経済対策が必要だろう。

「独立財政機関」が国の支出を評価すべき

科学技術分野に対する投資が「ばくち的」に行われてしまうことも避けなければいけない。"Horizon 2020"では、「研究・イノベーション分野における1ユーロの投資が平均で13ユーロの経済効果を生む」と推計されている。

不確実性の高い試算だが、「日本でも経済学者と科学者が協力してこのような試算の精度を高めることが求められる」「すでに一部ではモデルの開発が進んでいるものの、課題は多い」(山下特任教授)。

このような投資の評価には技術的な課題も多いため、「ガバナンスの問題」も重要となる。日本の場合、独立した立場で国の財政状況を監視する「独立財政機関」(Independent Fiscal Institution; IFI)が厳密には存在していない(財政審は財政状況の評価を行う財務相の諮問機関に過ぎない)。

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