岡氏は音楽療法の専門学校に通っていたときから高齢者の訪問介護と障害児者支援の仕事で生計を立てていたが、ウブドベを設立したあともそれは続いた。
発足時の常勤メンバーは岡氏と事務局長である舘野友仁氏の2人。当初はボランティアベースで、2人が元からしている仕事の収入から生活費を引いた分を運転資金に充てていた。岡氏の「あれば使っちゃう」性格上、元手はほとんどなかったが、最初の数年間は身を削りながら無借金経営でできるかぎりの活動をしていたという。
「本当に小規模にやっていたので、2010年にNPO法人化したあとも大きな収益を上げたいという目標は特になかったですね」
大規模なイベント中止で負債を抱える
その状況が一変したのは翌2011年の秋のことだ。
著名なミュージシャンを呼んで数百人の子供たちを集める大規模なイベントを企画したところ、2日の開催日のうち初日が大雨で中止。保険をかけていなかったため、機材費やギャラの補償などが積み重なって1000万円近くの負債を抱えることになってしまった。
元来「なんとかなるでしょ」がつねに頭にある楽観的な性分で、これまではそれがプラスに働いてうまく乗り切れていたが、今度ばかりは手に負えない。
「2~3カ月くらいは『いま計算していますんで~』と誤魔化したりして逃げていました」
しかし、待たせている相手はこれまでお世話になってきた人たちで、いわば仲間だ。会場や会場設営、音響や装飾、アーティストなど、あらゆる「仲間」からの請求書がたまっていく。夢に出てきた。とはいえ、どれだけ生活費を削っても返せる額じゃない。知り合いの弁護士に相談したら「これ、破産だよ」と言われた。兄に話したら家族会議が開かれ、やはり同じように自己破産を強く勧められた。脳裏には撤退の文字が浮かんだ。
進退窮まり、覚悟を決めて最初に訪ねたのは、もっとも高額の請求を待ってもらっていた音響会社の舞台監督だ。現状を洗いざらい話すと、ものすごい怒号が返ってきたという。しかし、金銭の話ではなかった。
「『もうすぐ生まれる俺の子供は障害があるかもしれない。その子の将来が心配だけども、ウブドベみたいな団体がスケールしたら安心して子育てできる。だからイベントに参加したんだ。だから、そんなカネのことで辞めんなよ!』と。その瞬間にすべてがバコッと変わった感じがしました」
直後、他の人たちにも支払いを待ってもらうよう頭を下げて回った。
「返す自信というより、もう決めた!という感じになりましたね」
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