Nゲージ大手3社、価格・製品戦略は大きく違う 日本の「鉄道模型ビジネス」を学術的に考察

拡大
縮小

また、「KATO」は、競合製品が3製品以上ある市場に全投入製品のバリエーション数の62.5%を投入する一方で、競合製品が3製品未満の市場に対しても37.5%投入している。このことから、「KATO」は、競合製品が多い市場と、競合製品が少ない市場の両方を複合して製品投入していることがわかる。

そして、「マイクロエース」は競合製品が3製品以上ある市場に対しては全投入製品のバリエーション数の19.6%を投入するにとどまっており、対照的に競合製品が3製品未満の市場に対して全投入製品のバリエーション数の約8割に当たる80.4%を投入している。また、全投入製品のバリエーション数の半分に当たる50.0%は競合製品が全くない市場に投入されている。よって、徹底して競合製品が少ない、あるいは存在しない市場への製品投入に集中していることがわかる。

マイクロエースは徹底的な差別化戦略

まとめれば、本研究の定量分析の結果からは、主要Nゲージメーカー3社が相違する製品戦略・価格戦略を採用していることが推測される。「TOMIX」は製品戦略として他社と競合製品が多い市場に積極的な製品投入をしている。そして、平均価格を主要3社のうちで最も低価格にすることで価格面において差別化を図る価格戦略を採用している。

「KATO」では、他社と競合製品が多い市場とともに競合製品が少ない市場にも自社製品を投入する製品戦略を採用している。価格面では、「TOMIX」と同様に6000円台を主軸の価格帯としている。ただし、価格面では「TOMIX」よりは高価、すなわち価格優位性がない状況であり、市場投入する製品種の量では「マイクロエース」に劣る。したがって、本研究の調査からは、「KATO」では価格面、製品面の両面において差別化に成功していないという状況、「スタック・イン・ザ・ミドル」に陥っている状況が推測される。

「マイクロエース」は、価格面では他社と比較して高価格な製品を市場に投入する価格戦略を採用している。製品戦略では、他社と競合製品が少ない市場に対して徹底的に製品を投入する戦略を採用していることによって差別化を図っている。

今後は、主要Nゲージメーカーへのヒアリングを通じて、鉄道模型産業をより精緻に明らかにする必要がある。また、どのような経営戦略に基づいて、主要メーカーが鉄道模型産業を展開しているのかも明らかにして、本研究の深度をより深めていきたい。

当記事は、「日本の鉄道模型産業に関する構造分析~産業組織論・マーケティングミックス戦略論の視点から~」(東京交通短期大学『研究紀要』第22号所収)の一部を東洋経済オンライン向けに書き改めたものである。
藤井 大輔:東京交通短期大学運輸科准教授
ふじい だいすけ / Daisuke Fujii

1975年新潟県三条市生まれ。東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了、博士(経済学)。東洋大学経済学部総合政策学科助教、(一財)運輸調査局研究員を経て、2015年から現職。2010年公益事業学会奨励賞受賞。研究分野は、交通事業・交通政策、情報教育。

この著者の記事一覧はこちら
平野 琢 東京交通短期大学専任講師

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

ひらの たく

1980年熊本県熊本市生まれ。一橋大学商学研究科修士課程修了(修士;経営学)、東京工業大学イノベーションマネジメント研究科博士課程後期修了(博士;工学)。東京交通短期大学助教を経て2017年より現職。専門は経営学。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
鉄道最前線の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT