東芝の監査法人、「PwCあらた」が一転継続へ 一度は決裂した両社が急接近した理由

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そこで東芝とあらたは水面下で打開策の検討を始めた。5月8日に幹部同士が再会し、2017年3月期の本決算には限定付きであっても適正意見が出せるよう協調することを確認した。また、有価証券報告書の提出期限である6月末までは無理としても、秋までの本決算発表を目指すことも合意した。

焦点である「巨額損失の計上時期」の落としどころについては、あらたが監査を担当する以前の決算期の問題として、「2015年度以前は新日本監査法人が適正意見を出している」と監査報告書の「強調事項」に記す方向で検討が進んでいる。

両社の関係は冷え切っていたはずなのに、2017年3月期だけではなく、2018年3月期も監査継続で調整している背景には、こうした水面下での劇的変化があった。

図らずも内部統制の不備が再び露呈

そもそものボタンの掛け違いは4月初旬に起きていた。監査の現場で「4月11日に適正意見を出すにはいくつかの確認事項をクリアする必要があるが、それには2〜3週間かかる」とあらたの監査チームが言ったのを、東芝の決算担当者は監査委員会に「あらたが適正意見を書くと言っている」とのみ伝えた。

しかし、あらたは結果的に意見不表明とした。4月11日の会見で監査委員会の佐藤良二委員長が強い口調で監査法人の交代に言及したのはこのためだった。

監査委員会に情報が正確に伝わっていないという事実は、図らずも、東芝の内部管理体制が改善していないことを示した。こうした掛け違いは再発しないともいえない。いったん歩み寄った両社だが、再び決裂する危うさも抱えている。

山田 雄一郎 東洋経済 記者

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やまだ ゆういちろう / Yuichiro Yamada

1994年慶応大学大学院商学研究科(計量経済学分野)修了、同年入社。1996年から記者。自動車部品・トラック、証券、消費者金融・リース、オフィス家具・建材、地銀、電子制御・電線、パチンコ・パチスロ、重電・総合電機、陸運・海運、石油元売り、化学繊維、通信、SI、造船・重工を担当。『月刊金融ビジネス』『会社四季報』『週刊東洋経済』の各編集部を経験。業界担当とは別にインサイダー事件、日本将棋連盟の不祥事、引越社の不当労働行為、医学部受験不正、検察庁、ゴーンショックを取材・執筆。『週刊東洋経済』編集部では「郵政民営化」「徹底解明ライブドア」「徹底解剖村上ファンド」「シェールガス革命」「サプリメント」「鬱」「認知症」「MBO」「ローランド」「減損の謎、IFRSの不可思議」「日本郵政株上場」「東芝危機」「村上、再び。」「村上強制調査」「ニケシュ電撃辞任」「保険に騙されるな」「保険の罠」の特集を企画・執筆。『トリックスター 村上ファンド4444億円の闇』は同期である山田雄大記者との共著。

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