日本の「規制緩和」が遅々として進まない事情 「司法」は「行政」に遠慮しすぎていないか

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そもそも規制緩和は何をもたらすのか。簡単にピックアップしてみると、

・業界全体のパイが拡大する(経済成長をもたらす)

・民営化の進展で新規雇用が創出される

・業界全体のグローバル化が進む(外国資本の流入、市場の国際化)

事業の設立状況や資金調達の環境などで、その国の規制緩和や国際化の進捗状況を評価したランキングに「世界銀行ビジネス環境ランキング」というのがある。2017年の総合ランキングで日本は世界ランキング34位となっている。

ちなみに1位はニュージーランド、以下シンガポール、デンマーク、香港、韓国と続く。78位の中国よりはましだが、日本はなぜかくも遅れているのか。その中身を見ると、事業設立分野では89位、資金調達部門で82位、建設許可取得で60位と大きく遅れが目立つ。

つまり、外国企業にとって日本は市場参入しにくい存在であり、日本企業にとっては逆に海外進出する意味があまりないともいえる。日本の規制緩和の遅れが日本企業の海外進出も阻んでいるし、いずれは決断しなければならない外国人労働者の大量受け入れといった、本当の意味のグローバル化も遅くなる一方といってよい。

日本の成長戦略にもマイナスに

なぜ、岩盤規制が残り、強固な規制を突き崩せないのか……。前述したように、その責任の一端は「司法」の怠慢にあると私は思っている。日本の司法制度は、地裁から最高裁判所までそろって行政に遠慮して、その方向に沿った判決や判断しかしないことで知られる。司法の怠慢は、日本経済全体の勢いにブレーキをかけ、日本の成長戦略にもマイナスになっている。

混乱させない、という理由で、違憲状態の総選挙やり直しを命ずることもなく、国民主権を守ろうという姿勢がほとんど感じられない。企業も国に逆らってまで新しいことにチャレンジしようという気概が感じられない。

たとえば、今までまったく想定していなかったような新規事業を展開する場合、海外では政府や役所の意向とは関係なしに民間企業がどんどん事業化に突っ走る。もし、そこで行政によるブレーキがかかった場合は、訴訟も辞さない覚悟で突き進むケースが多い。

その背景には、米国や英国では司法が的確な判断をしてくれるはずという安心感があるからだ。司法が正しい判断をしてくれる、という安心感があるから、莫大な投資も可能となり、新しいイノベーションに突き進むことができる。

日本の場合、100%とはいわないが、ほぼ行政側が勝訴する。司法に対して、まったく信頼感がない。そんなリスクを抱えている市場では、投資家も大切な資金を出せない。日本の司法は行政の方向性を逸脱するような判断をしないし、判断をする場合も時間をかけて、恐る恐る進めていく。その結果、憲法判断でさえ行政が勝手にしてしまう状況が続く。

裁判官の多くは、自分の地位や高額の報酬、厚遇された職場環境は、行政が与えてくれていると考えているのかもしれない。しかし、本当はその報酬も快適な職場環境も国民がコストを負担していることを忘れないでほしい。主権は国民なのだ。

岩崎 博充 経済ジャーナリスト

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いわさき ひろみつ / Hiromitsu Iwasaki

雑誌編集者等を経て1982年に独立し、経済、金融などのジャンルに特化したフリーのライター集団「ライトルーム」を設立。雑誌、新聞、単行本などで執筆活動を行うほか、テレビ、ラジオ等のコメンテーターとしても活動している。『老後破綻 改訂版』(廣済堂出版)、『日本人が知らなかったリスクマネー入門』(翔泳社)、『「老後」プアから身をかわす 50歳でも間に合う女の老後サバイバルマネープラン! 』(主婦の友インフォス情報社)など著書多数。
 

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