ユーロ高が進んでいる。フランス大統領選挙という大きな山を越えて、欧州の政治リスクへの懸念が後退、経済の意外な強さに目が向きやすくなったからだ。
ユーロ圏では、過去4年にわたり景気が拡大しているが、ここにきてそのピッチはわずかながらも速まっている。今年1~3月期のユーロ圏実質GDP(国内総生産)成長率は前期比年率2%。2016年10~12月期の同1.9%に続き、1%台前半とみられる潜在成長率を大きく超えた。実質GDPとの連動性が高い総合購買担当者指数(PMI)は5月速報値が56.8と、およそ6年ぶりの高水準。雇用・所得環境の改善を背景とする個人消費が牽引役だが、世界金融危機以降、低調に推移してきた投資も勢いが出つつある。米国、中国など域外向けの輸出も持ち直している。
デフレの脅威も後退している。4月のCPI(消費者物価指数)上昇率は前年同月比1.9%。今年に入ってから、イースター休暇の日程が影響した3月の同1.5%を除いて、ECB(欧州中央銀行)が安定水準と見なす「2%以下でその近辺」の圏内にある。原油価格の押し上げ効果が大きいが、ゼロ近辺で推移していた1年前とは様変わりした。
ECBは6月に政策の軌道修正を進めるのか
景気・物価の上振れを受けて、ECBが次回6月8日の政策理事会で、「デフレリスク回避」を目的とした政策からの脱却をさらに進めるのではないか、という観測が浮上した。ユーロはこうした観測にも押し上げられている。
ECBはデフレリスク回避の名目で導入した政策の一部をすでに修正している。2014年9月に導入し、3カ月ごとに実施してきた貸し出し促進のための最長4年のターゲット型資金供給(TLTRO)は今年3月で打ち切った。資産買い入れも、2016年3月に月800億ユーロに増額したが、今年4月から、2015年3月の開始当初の月600億ユーロに戻した。金融政策の先行きを示す「フォワードガイダンス」も、今年3月、「利用可能なあらゆる手段を用いる」という文言を削除、非常時モードを解除した。
ただ、ECBの場合、6月理事会でさらなる軌道修正が予想されるといっても、追加利上げの有無が焦点のFRB(米国連邦準備制度理事会)とは異なり、経済と物価の見通しやリスクバランスの判断を変えるのか、フォワードガイダンスのさらなる修正に踏み込むかが注目される段階だ。いきなり利上げや資産買い入れ縮小に動くことはない。
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