進むユーロ高、ECBは本当に「脱緩和」なのか 政治リスク後退だが、経済回復は本物か?

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フォワードガイダンスの修正も6月理事会では見送る可能性が高い。ECBの現在のガイダンスは「政策金利は、資産買い入れの期限を越える長期にわたり、現在の水準か、より低い水準にとどまる」。現在の政策金利は、インフレ率がゼロ近辺に近づき始めた2014年6月以降の追加利下げで、主要オペ金利がゼロ、中銀預金金利がマイナス0.4%となっている。デフレリスクは明らかに遠のいており、少なくとも利下げバイアスは解除してもよさそうだ。また、「資産買い入れの停止が先、利上げはその後」という順序についても、中銀預金金利がマイナス0.4%まで深掘りされていることを思えば、見直す余地はあろう。

他方で、4月理事会の議事録には「市場はコミュニケーションの変化に敏感になっている」、「コミュニケーションのわずかで段階的な修正が、金融政策の変更を告げる強いシグナルと受け止められ、早すぎる不当な金融環境タイト化によってインフレ目標の達成が脅かされかねない」との記述がある。ドイツ連邦銀行のバイトマン総裁などタカ派は利下げバイアス解除を強く主張しそうだが、コンセンサスは、経済・物価見通しとリスクバランスの修正があるとしてもわずかという段階で、フォワードガイダンスを修正すべきではないという判断に落ち着くように思われる。

ECBは脆弱国に軸足を置かざるをえない

ECBの金融政策の正常化は、南欧など圏内の過剰債務国、低競争力国に負荷が大きく、圏内の格差を一段と増幅しかねない悩ましさがある。フランスのマクロン新大統領は、圏内の格差是正のメカニズムを欠くユーロ制度の改革案として、共通財源に基づく「ユーロ圏共通予算」の創設やユーロ圏議会、ユーロ圏経済・財務相ポストの創設などに意欲を示す。

こうした財政統合につながる議論に、これまでドイツは消極姿勢を示してきた。しかし、フランス大統領選挙で、結果次第でEUもユーロも立ち行かなくなるリスクが現実味を帯びた後だけに、マクロン大統領の提案に、ドイツがこれまでより前向きに対応する可能性はある。

そうだとしても、改革の議論が本格的に動きだすのは、9月のドイツの総選挙が終ってから。議論がスムーズに進展したとしても、EUやユーロ圏の意思決定の仕組みを考えると、圏内格差の是正に資する枠組みが実際に立ち上がるまでには、年単位の時間が必要だ。

ECBは、ユーロ圏内の格差に対応できる唯一の機関として、ユーロ圏の全体像よりも脆弱な国に軸足を置いた政策運営を継続せざるをえないと見ている。

伊藤 さゆり ニッセイ基礎研究所 主席研究員

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いとう さゆり / Sayuri Ito

早稲田大学政治経済学部卒業後、日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)を経て、ニッセイ基礎研究所入社、2012年7月上席研究員、2017年7月から現職。早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了。早稲田大学大学院商学研究科非常勤講師兼務。著書に『EU分裂と世界経済危機 イギリス離脱は何をもたらすか』(NHK出版新書)、『EUは危機を超えられるか 統合と分裂の相克』(共著、NTT出版)。アジア経済を出発点に、国際金融、欧州経済を分析してきた経験を基に、世界と日本の関係について考えている。趣味はマラソン。

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