JRパス「在外日本人は使用不可」撤回の舞台裏 「ジャパン・レール・パス」の知られざる側面

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さまざまな邦人団体・個人が各方面への働きかけを行ったにもかかわらず、JR側から新たな方針が示されない中、3月も下旬を迎えていた。藤巻さんは「署名は引き続き続けるつもりだが、どうあれこのまま『締め出し』となるのか、と絶望していた」と言う。

ところが事態は3月31日になって急展開する。旧規定、つまり在外邦人がJRパス(正確には3カ月有効のパス引換券)を買うことができる最後の日となったこの日、JRは「在留期間が10年以上の在外邦人には6月1日からパス引換券の販売を再開する」とする要旨のプレスリリースを発表したのだ。

「ご利用資格を変更する計画はございません」と言い切ったうえでの方針転換。署名運動や陳情等の結果が反映されたものなのかどうか判断はつきかねるが、とりあえず東京五輪が行われる2020年末まで一部の在外邦人は引き続き購入できることとなった。

在外邦人と共に訪日したい外国人も多い

これら「軌道修正」の経緯について、JR関係者が明かす。まず、日本人の永住者への販売打ち切りについては、「JR各社で協議して決定した」。しかし、方針決定を発表した後、「海外の在住者からかなりの問い合わせを受けた」としたうえで、国交省からも「なんとかならないか」と方針転換を求める相談があったという。

最終的に、「東京五輪だけでなく、その前年の2019年には日本でアジア初開催のラグビーワールドカップ(W杯)が国内の12都市で開催されることもあり、“やはり再考すべきだ”となり、あらためて新たな販売条件についてJR各社で協議を行った」。

なお、海外在住者向けのJRパスの新たな販売規定の有効期間については、東京五輪が行われる「2020年末まで」となっているが、前述のサンパウロ新聞はJRの反応を「『その後については利用状況を見て判断したい』と語り、制度の恒久化にも含みを持たせた」と伝えている。

「在外邦人向けのJRパス販売を打ち切られると本当に困る」という訴えの中には、「家族のうち、自分だけが日本国籍。帰省時の費用負担が増えるのは困る」という個人的な事情を訴えるものから、「東京五輪を控え、居住国のスポーツ団体と共に日本国内を回る機会が増える。通訳役の私の電車代だけが高く付くという状況を関係者にどう説明したらいいのか」「身近に私のような日本人がいるから一緒に訪日しよう、と声を掛けてくれる外国人の方もいるのに、JRがわざわざそういう流れを止めようとするのは理解に苦しむ」といった声が上がっていた。

政府が「訪日客をさらに増やそう」と呼び掛ける中、外国人たちに訪日を働きかける在外邦人の役割は決して小さくないだろう。JRによる今回の「軌道修正」をまずは評価したいものだ。

さかい もとみ 在英ジャーナリスト

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Motomi Sakai

旅行会社勤務ののち、15年間にわたる香港在住中にライター兼編集者に転向。2008年から経済・企業情報の配信サービスを行うNNAロンドンを拠点に勤務。2014年秋にフリージャーナリストに。旅に欠かせない公共交通に関するテーマや、訪日外国人観光に関するトピックに注目する一方、英国で開催された五輪やラグビーW杯での経験を生かし、日本に向けた提言等を発信している。著書に『中国人観光客 おもてなしの鉄則』(アスク出版)など。問い合わせ先は、jiujing@nifty.com

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