藤巻さんは言う。「住民登録を日本で行っていない在外邦人は、銀行口座が開けない、マイナンバーをもらう資格がないなど、日本では『居住者として扱われない』にもかかわらず、JRは非居住者であろうがなかろうが、『日本人』というだけでJRパスの利用対象から締め出そうとしたわけです。国際化が進む現在、日本にまったく行ったことがないとか、旅行でしか訪れたことがない日本国籍の子どもたちも世界中にたくさんいます。そういった状況があることに理解を示さないJRの方針が許せなかったのです」。
一方、JRパスからの「邦人締め出し」で大きな「怒り」を示したのは、明治時代から多数の移民が居を構えるブラジルの日系社会だった。現地で出版されている在ブラジル日系人向けメディア・サンパウロ新聞によると、「日本政府が経済成長戦略の柱として観光振興に力を入れる中、ブラジルの日系移民からは『おもてなし文化とは掛け声だけ。われわれを切り捨てるのか』と悲痛な声が上がった」としたうえで、JRグループや国土交通省に見直しを求める嘆願書を提出した。事態を重く見た佐藤悟駐ブラジル日本国大使も帰国した際、石井啓一国土交通相に直接、ブラジル日系社会の強い要望を伝え、善処を求めるなど、JRによる翻意を促したという。
韓国国鉄は「非居住者であれば周遊パスを売る」
ここで、ほかの国で売られている鉄道パスの取り扱いを見てみよう。
たとえば、欧州への個人旅行者が使う「ユーレイルパス」の場合、購入条件は「欧州各国および、トルコ、ロシア連邦の居住者は買えない」との規定を設けているにとどまる。また欧州には国別パスという商品が存在するが、たとえば「スイスパス」は「スイスの非居住者なら誰でも買える」という条件なので、同じ欧州でも英国やフランスに住んでいれば、たとえスイス人でも買うことができる。
この手の外国人訪問客向けパスは、韓国でも「コレール(KORAIL)パス」の名で売られている。これの販売対象者に関する説明文を読んでみたら「韓国滞在が6カ月未満の外国人」もしくは「韓国籍でも外国市民権または長期ビザを所持していれば購入可能」とあり、「販売対象は非居住者」という考え方をきちんと打ち出している。
これら他国の事例(別表のとおり)を読むかぎり、JRが1度打ち出した「日本人はどうであれとにかく締め出し」という発想には違和感を禁じえない。
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