原発事故「避難勧奨地点」指定の理不尽 あいまいな賠償の基準、住民同士は口もきかぬ状態に
こうした違いが設けられたことについて、伊達市の半澤隆宏・放射能対策政策監は「あくまで国が決めたこと。私自身も後で知ってびっくりした」と語る。一方、国の現地対策本部関係者は「地元自治体の意向も踏まえて基準を設定した」という。いずれにしても住民にきちんとした説明はされていない。
また、両市では解除のタイミングも大きく異なっている。伊達市では昨年12月14日付けで勧奨地点の指定が解除されたのに対して、南相馬市では今も指定が続いている。その理由について現地対策本部は「除染作業の進捗度の違い」を挙げるが、伊達市でも解除された時点では、勧奨地点に指定されていたすべての世帯で除染が終わっていたわけではなかった。
仁志田市長は解除当日の記者会見での「早期解除を国に申し入れていたということか」との問いに、「われわれの考えは申し上げていた」と答えている。そして、「(解除によって)正月前に(住民を元の場所に)帰してやりたいというのが一般的な人情。(線量がある程度下がっており)国がやろうとしていることについて反対する理由はない」とも述べている。こうした発言からもわかるように、伊達市はむしろ解除自体に積極的だったと見られる。
ADRは伊達市を相手取ったものではないが、住民の不満は市にも向かっている。石田坂ノ上地区で農業を営む前出の男性は、「住民の考えをくみ取って国にきちんと伝えるのが市の責務だが、それを放棄している」と語気を強める。小国地区で工場を経営する男性(58)は「指定も解除も実質的には市が決めたこと。それなのに住民にきちんとした説明がいまだに何もない」と憤る。
持って行き場のない不満が、山あいの集落のあちこちで渦を巻いている。その現実を直視することを、国や東電、伊達市は避け続けている。
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