原発事故「避難勧奨地点」指定の理不尽 あいまいな賠償の基準、住民同士は口もきかぬ状態に

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全村民が避難を命じられた飯舘村と山一つ隔てた石田坂ノ上集落でも、指定された世帯とされなかった世帯が混在している。ここでも住民の間に亀裂が入り、原発事故以来、3年にわたって春祭りや秋祭りが開催できないままになっている。

その理由について住民の末永靖治さん(72)は、「宴席でアルコールでも入ると、『あんたは恵まれている』『何を言うか』と大げんかになりかねないからだ」と語る。

末永靖治さん(左端)の集落では秋祭りも開催できなくなった

同じ石田坂ノ上集落に住む女性(64)の場合、「6人兄弟のうち3人が指定を受けていて、3人が指定外。おカネに関する話ではみんな黙っている」という。

4年前に石田坂ノ上地区に住居を構えて農業を始めた男性(37)は、最も理不尽な扱いを受けている一人だ。男性の自宅の庭先では1メートルの高さで3.0マイクロシーベルトを上回る数値が検出されたが、3.1マイクロシーベルト未満であることを理由に、勧奨地点の指定を受けられなかった。

それとは裏腹に、原発事故後、生活は著しく困窮している。農業を始めて年数が経過していなかったため、賠償の基準となる収入が多くなかったからだ。原発事故後は農作物が売れず、収入が激減した反面、「避難先から農場に通うために、自家用車を新たに買わざるをえなくなった。ガソリン代だけでも月に2万円もかかる。このままでは農業を続けられなくなるかもしれない」と男性は不安を打ち明ける。

自治体で異なる指定基準

伊達市と南相馬市では勧奨地点の指定基準が異なっていたことも、住民に不信感を抱かせた。

国の原子力災害現地対策本部によれば、伊達市では「庭先の高さ1メートルで毎時3.2マイクロシーベルト以上が計測された世帯および近隣で小学生以下の子どもや妊婦のいる世帯」が指定されたのに対して、南相馬市では「庭先の高さ1メートルで3.2マイクロシーベルト以上が計測された世帯および近隣で高校生以下の子どもまたは妊婦がいて高さ地上50センチメートルで2マイクロシーベルト以上が計測された世帯」が指定対象となった。同本部は「一概にどちらの基準が緩いとは言えない」というが、南相馬市での基準に当てはめた場合、伊達市でも指定を受けられた世帯が多くあったことは想像に難くない。

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