成功する人とは「偶然を味方にできる人」だ 偶然を味方にする具体的な手段は存在する

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本書では、著者自身の生い立ちや心不全で倒れて奇跡的に生還した実体験などから、ビル・ゲイツを始めとする企業家、アスリート、音楽家、映画俳優の成功ストーリーまで、様々な事例や社会実験を通じて、成功には如何に多くの偶然や運が関わっているかが示されている。

更に、才能があって努力するという資質そのものが、家庭環境によって早い段階から獲得される幸運な優位性なのだとして、著者は次のように述べている。

“才能と努力だけで経済的成功が保証されるとしても(実際はされないのだが)、運が不可欠であることに変わりない。才能豊かで、まじめに働く意欲が高いこと自体が、そもそも大きな幸運によるものなのだから。わたしは運・不運が個人の資質の違いにつながると訴えたいわけではない。近年の研究で明らかになった、偶然のできごとや環境的要因が――個人の資質や欠点とはまったく無関係のものが――人生を左右するという事実をみんなにも知ってほしいのだ。”

 

そして、こうした偶然や運の果たす役割は、ITやグローバル化の進展によって「ひとり勝ち市場(winner-take-all) 」が拡大し、競争が激化したことで、この数十年で格段に大きくなったと言う。

他者より1%頑張って働く人や 、1%多く才能がある人が 、1%多い所得を得るというのなら分かるが 、今やこうした小さな違いが何千倍もの収入の違いにつながるため、偶然の果たす役割はどんどん重要になってきているというのである。

外的な力の役割をどう考えるか

こうした著者の主張を我々はどう受け止めるべきなのか?

この点について、ニューヨーク・タイムズのコラムニストのデイヴィッド・ブルックス氏は、2012年の大統領選の最中にオハイオのビジネスマンから届いた手紙に対して、次のように上手に答えている。

質問:「ここ数年で、事業に成功しました。これまで懸命に働き、成し遂げたことに誇りをもっています。ところがオバマ大統領は、成功には社会や政治の力も寄与していると言います。ミット・ロムニーはイスラエルを訪問し、国の貧富の差は文化の力によると言いました。わたしは混乱しています。成功の要因のうち、わたしの力によるものはどのくらいで、わたし以外の力によるものはどのくらいなのでしょうか?」

回答:「外的な力の役割をどう考えるかは、あなたが人生のどの段階にいるのかと、先を見ているのか後ろを振り返っているのかによります。将来のすべての業績は自分ひとりで成し遂げるもの、過去のすべての成功は大いなる恩恵を受けたものと考えるべきです……人生を歩むにつれ、自分がどれだけの功績に値するかについての考えは変わります。人生を始めるときは、自分がすることはすべて自分がコントロールしているという幻想を抱くと良いし、人生を終えるときは総じて、自分の功績以上のものを得たと認めるべきです……野心的な企業幹部にとって大切なのは、自分の実績はすべて自分の力によるものだと信じることですが、これは人としては愚かな考えだと知ることが重要です。」

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