成功する人とは「偶然を味方にできる人」だ 偶然を味方にする具体的な手段は存在する
以上が、本書の成功と運に関する部分なのだが、実はここからが本題で、著者が最も言いたかったのは、人々が幸運を掴みやすくするための具体的手段は存在するということなのである。そのひとつは個人の行動や生き方や姿勢に関わるもので、もうひとつは政策的なアプローチとしての税制改革を通じた公共投資である。
多くの人々が幸運を享受できる環境
先ず、前者について、著者は次のような興味深いことを言っている。
私たちがしっかり人を見分ければ、誠実な人は、その誠実さゆえに手に入れ損なった儲けよりも多くのものを手に入れるだろう。”
こうした一見矛盾するような考え方は、「日本資本主義の父」と呼ばれる渋沢栄一の『論語と算盤』にも通じるものがあるように思う。即ち、渋沢栄一が「道徳経済合一説」を説き、論語に基づく企業経営を実践したのと同じ文脈で、著者も道徳心(論語)と利己心(算盤)は両立すると言っているようである。
また、後者については、税制のあり方を抜本的に見直して「累進消費税」を導入することで、社会の活力を削ぐことなく多くの人々が幸運を享受できる環境を創り出すことができることを示したかったのが、本書を執筆したそもそもの動機だと言っている。
尚、ここで言う累進消費税とは、いわゆる個々の商品購入に対してかかる消費税ではなく、個人の年間収入から貯蓄額と基礎控除を差し引いた総消費額に対して、今の所得税と同じように、一年に一度、累進課税するという仕組みである。
この累進消費税を活用して、個々人の成功の前提となる社会基盤を整備し、より多くの人々が幸運を享受できる環境を創り出そうというのである。著者の例えで言うなら、でこぼこで穴だらけの道をフェラーリで走るのと、平らに舗装された道をポルシェで走るのと、お金持ちにとってどちらが心地良く感じるかということである。つまり、仮に累進消費税によって税金を多く取られることで、金持ちの車がフェラーリからポルシェにダウングレードすることになったからといって、実際の効用も相対的な満足度も下がらないし、むしろ後者の方が心地良いはずだというのである。
このように、本書を単なる個人が成功に至る上での運の重要性を解明したものと捉えるか、或いは多くの人々により開かれたチャンスを提供するインクルーシブな社会への提言と見るか、読み方は読者の視点に委ねられているのである。
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