賃貸物件で住民クレームが激増した根本原因 クレームの出ない物件づくりは可能なのか?

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:コンセプトは、共通の趣味でもいいと思います。たとえば、ここ2年でネコ好きな人ばかりを集めた物件を5棟つくりました。廊下でたまに顔を合わせるくらいでも、住人はお互いネコが好きという共通項があれば、ちょっとした連帯感とか、仲間意識が生まれます。

さらには、価値観の近さでもいい。「SORAMICHI」という物件は、さいたま新都心駅から徒歩14分という好立地とはいえない場所にありながら、2月4日に引き渡して、3月末には満室になりました。ここでは、暮らしに一手間かけたい人を集めました。

室内には、DIY可能壁をつくりました。一般的な賃貸物件にある「原状回復義務」を免除しているので、釘を打っても、何か張ってもいい。

『お客さま、そのクレームにはお応えできません!』(光文社)。上の画像をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

天井も、通常の1.5倍くらい高くて、カーテンをつけるのに脚立がいる。わざわざ長いカーテンをあつらえて、脚立にのぼって取り付ける。何かというと手間がかかるわけです。

こうした「一手間」をかけてもいいという人は、暮らしを楽しむ方が多く、駅から徒歩14分の立地も悪条件にはならない。

もう1つ工夫したのは、敷地内を全部禁煙にしたんです。窓開けて吸うとか、庭で吸うみたいなのも全部禁止にして。そうすれば、たばこの煙が煙いとか、洗濯物につくとかいうクレームは発生しえないわけです。

「永住型賃貸」に変わっていく必要がある

三浦:非常にいいケースですね。コーポラティブハウス(住宅を取得したい人が集まり、自ら事業主となって住宅を建てる方式のこと)の賃貸版ともいえるね。

社会学者として考えると、「じゃあどの共通項にも入れなかった人はどこに住むんだ」という疑問はあるけれども(笑)。

:いまや賃貸物件は、いつか家を買うまで我慢して住む、寝に帰るために住む、というものでは必ずしもなくなってきて、積極的に賃貸に住みたいという人たちも一定数増えてきています。そういう人が満足できるような物件をつくっていかないといけませんね。

そうすれば、自然とクレーム対応に翻弄されることも減るわけです。

三浦:永住型賃貸に変わっていかなくてはならないということですね。

三浦 展 社会デザイン研究者

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みうら あつし / Atsushi Miura

カルチャースタディーズ研究所主宰。1958年生まれ。1982年に一橋大学社会学部卒。パルコに入社し、マーケティング誌『アクロス』編集室。1990年に三菱総合研究所入社。1999年に「カルチャースタディーズ研究所」を設立。消費社会、家族、若者、階層、都市などの研究を踏まえ、新しい時代を予測し、社会デザインを提案している。 著書は、80万部のベストセラー『下流社会』のほか、『第四の消費』『日本人はこれから何を買うのか?』『東京は郊外から消えていく!』『毎日同じ服を着るのがおしゃれな時代』『あなたにいちばん似合う街』など多数。

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