谷:そうでしょうね。だから、私たちは「排水口っていうのはね、定期的に掃除をしないと詰まるものなんですよ」という教育から始めなくてはならないわけです。
三浦:そもそも私の時代だと風呂は銭湯だから髪の毛が詰まりようがない。今はお風呂付きが当然だし、エアコンにインターネットに部屋の設備がいいから、クレームを言う機会が増えるんでしょうね。
谷:私は20年間この仕事をしていますが、入社当時の管理部の仕事といえば、せいぜい家賃滞納者の督促をしたり、壊れた備品の修理に行ったり。苦情ももちろんありましたが、現在のように多くはなかったし、内容もこんな細かいものはなかった。
加えて、築年数が古くて、その分建て付けも悪くなってしまったような物件だと、「現況有姿」っていう便利な言葉がありました。つまり「このままの状態でお貸ししますが、その分家賃はお安くしているので、多少不備があっても、文句は言わないでね」と。借りる側も、賃料も賃料だからな、と我慢してくれていました。
最近は賃貸ではこの言葉を聞きませんね……。家賃相応の古い物件でも、新築と同じような水準を要求されてしまう。
三浦:まさに「不寛容社会」だね。消費者が増長しすぎている。私はクレーマーを恐れて馬鹿丁寧になる店員にもむしろいらだつことがあるけど。
かつては、物件を貸す側が偉かったんです。クレームどころか、キレイに住まないと「乾燥機の裏が黒いですね、3万円」と言われて、「はあ、すみません」と。不動産屋さんにいる店員さんも、みんな貫録があって怖いわけ。
ただ、20年くらい前からちょうど景気が悪くなってきて、借り手が増長するというか、貸す側が平身低頭せざるをえない状況になってきました。
ネット検索が可能になって、お客さんが強くなった
谷:バブルがはじけて、賃貸の状況も悪くなってきたところに、インターネットの普及がありました。
それ以前の物件探しは、雑誌の図面を見て、不動産屋さんに「こんにちは」って入っていって、お店の紹介に従って探していくのが普通。不動産屋さんの持っている情報が100だとしたら、お客さんはゼロの状態から物件を探す。そして、現地に行って「いい物件でしたね」「ダメでしたね」と、宝探しのように決めていきました。
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