谷:それが、ネット上での物件検索が可能になると、立場が逆転してお客さんが情報を持ち、強くなってしまった。物件サイトには家の細部までがわかる写真や動画までついていて、物件も不動産屋さんも、"お客さま”に比較され、選ばれるものになった。
そうなると、物件を契約してからも居住者が優位。部屋の備品の機能が損なわれているわけではなくても、「省エネ対応のエアコンじゃないから電気代が高い」とか、「ネットの速度が遅い」とか、もっと上のクオリティを要求されてしまう。
「八百屋さんの音楽がうるさい!」
谷:最近驚いたのは、「近所の八百屋さんの流す音楽がうるさい」という苦情です。当然「私たちからは注意できません」と伝えたら、本人が直接文句を言いに行ったらしく、今度は「八百屋さんに怒られちゃったんですが、どうしたらいいでしょう」とまた電話をいただきました(笑)。
別の方からは、向かい合った部屋の住民が中華料理をよく作るらしく、「中華の匂いが家に入ってきて困ります」なんて苦情もありました。われわれがその家に行って「中華を作らないでください」なんて言えるわけがないのに……。
三浦:八百屋さんの音楽とか料理の匂いとかって、状況としては昔からあったわけですよね。
谷:でも、それが管理会社への苦情にはならなかった。
なぜかと考えると、やっぱり、今は恨みを買うのが怖くて直接苦情を言えないという人が多いのではないでしょうか。
たとえば騒音のクレームだと、「上の人がすごくうるさくて注意してほしいんですが、私がそう言ったって伝えないでくださいね」と必ず付け加えられる。
だから、苦情が来ていることを伝える際は、オブラートに包んで「最近、上下階で音がうるさいという話が来ていますが、お心当たりはありますか?」とお尋ねするんです。
三浦:僕は学生時代の最初の1、2年、古い4畳半アパートに住んでいたけれど、壁と柱の間にすき間があって、明かりは漏れるし、麻雀して大騒ぎしている声も丸聞こえ。だがら、直接「うるさいんですが」と言い合うのが日常でした。
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