「食物アレルギー」のショックはなぜ怖いのか 乳幼児は牛乳、成人はエビ・カニなどで多い

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他の病気と同様、アレルギー疾患も、遺伝的要因と環境的要因がかかわって発症する。アレルギーの場合、遺伝と環境中の物質との相互作用によって、エピジェネティックな変化(遺伝子配列には影響しないが細胞分裂を経ても維持される変化)をもたらすとされる。

乳幼児期から起こる食物アレルギーは、卵、牛乳、小麦が大半を占め、ほとんどの子どもが自然に治癒していく。成長に伴って、食物を消化する力や、人体最大の免疫器官である腸管の免疫系が発達してくるためだ。一方で、学童期あるいは成人になってから発症する食物アレルギーは、甲殻類(エビ・カニ)、魚、そば、ピーナツなどによるものが多く、より治りにくい。

食物アレルギーの症状は、皮膚に起こることが多く(じんましんなど)、咳や息苦しさなどの呼吸器症状が出て、さらにショック状態に進むおそれがある。アレルゲンとなる食材は、料理や加工食品にも用いられており、うっかり摂取すれば、毛細血管や小動脈が拡張して血圧が低下し、ショック状態から対応を誤れば、絶命するおそれもなくはない。

そこでエピペンの登場である。こうした緊急時、自分もしくは周囲の人(学校の先生など)は、エピペンを注射して利用する。

注射を使わないに越したことはない 

実は毎年ハチに刺されて亡くなる人がいることから、エピペンはまず2003年にハチ毒用に導入された。2005年には小児の食物アレルギーまで適応が広がった。そして2011年から保険承認され、処方される人が増えている。

国立病院機構相模原病院臨床研究センター・アレルギー性疾患研究部長の海老澤元宏医師によると、「アナフィラキシーのリスクがあり、かつ自己注射ができる年齢の人に処方している。“お守り”なので、薬の有効期限(約1年)内に使わずに済めば、それに越したことがない」と語る。実際に使われるのは100本処方したうちの1本程度という。

そもそもアレルギーは、どのような仕組みで起こるのだろうか。

アレルゲンが体内に入ると、血液中に、免疫グロブリンE(IgE)抗体というタンパク質が作られる。実はIgEは1966年、日本人免疫学者の石坂公成氏(現・米国ラホイヤ・アレルギー免疫研究所名誉所長)によって突き止められ、ノーベル賞級の発見とされた。同じ物質が2回目以降に入ってきた場合、IgE抗体が免疫系に働きかけてアレルギー反応を起こす。何らかの物質に対してアレルギーがあるか否かは、血液検査や皮膚テストでIgE抗体を調べるとわかる。ただし、偽陽性者が多く出てしまうため、より正確に調べるには、食物アレルギーなら実際に食べた際の反応を見る経口負荷試験が必要になる。

即時型の食物アレルギーのうち特殊なタイプとして、口腔アレルギー症候群がある。これは口腔粘膜の免疫系がアレルゲンに反応するもので、果物や野菜を食べて口の中がイガイガするというような人は、アレルギーを起こしている場合がある。たとえば、花粉アレルギーがあれば、それと似たアレルゲンでも起こり、たとえばカバノキ科のアレルギーの人がリンゴを食べて、アレルギー症状が出るといった具合だ。これらのアレルゲンは熱に弱く、胃で消化されてしまうため、腸管で起きる食物アレルギーのように重症になることはまずない。

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