「食物アレルギー」のショックはなぜ怖いのか 乳幼児は牛乳、成人はエビ・カニなどで多い

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さて、IgE発見から半世紀を経ても、まだ根本治療に至る治療はないが、アレルギー疾患の治療は確実に前進している。

きちんとアレルゲンを調べ、避けられる原因であればそれを避けるようにすることは重要だ。ぜんそくでは、吸入薬などが進歩したため、完治はできなくても症状を管理できるようになった。フィギュアスケートでの羽生結弦選手は、ぜんそくがあるとされながら、世界の頂点に立ち続けている。かつてスピードスケートで五輪メダリストになった清水宏保さんも、ぜんそくを抱えているなど、トップアスリートの活躍は希望を与えてくれる。重度のぜんそくには、IgEの作用を抑える抗体製剤(ゾレア)も登場して、これによって劇的な効果を得られる人もいる。花粉症に用いる抗ヒスタミン薬は、眠気を起こさないものが主流となった。

社会が豊かになるほど関係する人が増える?

より根本に迫る治療も模索されている。ごく少量のアレルゲンを体に入れて慣らしていくアレルゲン免疫療法(減感作療法とも呼ばれる)は、かつては注射によるしかなかったが、スギ花粉やダニに対しては、エキスを口中に含むだけという、より簡便な舌下免疫療法が保険で受けられるようになった。食物アレルギーについても自然治癒を待つのでなく、より早い段階で慣れさせ、アナフィラキシーなどを起こすリスクを軽減するための経口免疫療法の開発が進められている。

とりわけ子どもの食物アレルギーは、本人のみならず、親の生活の質も損なう。また、アレルゲンを取った後に運動すると、症状が誘発されるタイプもある。前述の海老澤医師は、「原因を突き止められずアナフィラキシーを繰り返す人、3つ以上の食物にアレルギーがある人、日常生活で困っている人は、専門医にかかってほしい」と呼びかける。

社会の豊かさとアレルギーには、密接な関係がある。都市化・工業化が進むアジア諸国の中では、日本とは周回遅れでぜんそくが問題になりつつある。一方で先進国であっても、放牧や酪農に従事している人にはアレルギーが少ない、との報告がある。病原体と背中合わせの生活に戻れれば、アレルギー疾患は治るかもしれないが、それは不可能だ。“宿命”としてのアレルギーを、人智が克服することを期待したい。

塚崎 朝子 ジャーナリスト/博士(医学)・慶応義塾大学非常勤講師

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つかさき あさこ / Asako Tsukasaki

東京都世田谷区生まれ。読売新聞記者を経て、医学・医療、科学・技術分野を中心に執筆多数。国際基督教大学教養学部卒業、筑波大学で修士(経営学)、東京医科歯科大学で修士(医療管理学)。再生医療・新薬開発など生命科学に関する取材経験が豊富で、専門家向け・一般向け双方に分かりやすく解説。

著書に、『免役の守護者 制御性T細胞とはなにか』(坂口志文氏との共著、講談社)、『iPS細胞はいつ患者に届くのか』(岩波書店)、『世界を救った日本の薬 画期的新薬はいかにして生まれたのか?』(講談社)、『新薬に挑んだ日本人科学者たち』(講談社)ほか。

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