元DJが作る「地産地消パン」、その究極の原料

三浦海岸「充麦」は小麦まで自家製!

近所の養鶏所の卵や友人が営む肉屋のソーセージなど、充麦では地元産の素材を使ったパンが数多く並ぶ(撮影:今井康一)

そのほかの材料も、可能なかぎり地元産を使う。230円のクリームパンの材料に使う卵は、すぐ近くの山本養鶏場のもの。友人が営む肉屋、横須賀松坂屋のウインナードックは540円。サンドイッチなどに使う野菜も地元産。充麦全粒粉バゲットは360円だ。仕事を通じて地元ネットワークが広がり、つながりが深くなる。

充麦が成功したのは、地産地消に消費者が価値を見いだす時代の流れに乗ったからでもある。地産地消のムーブメントは、昭和後半から始まる。まず、衰退する地方を活性化する目的もあり、全国に農産物直売所ができた。1990年ごろから、各地で地元の在来野菜の発掘など、地元産作物の魅力を再発見する動きが起こる。1999年、食料・農業・農村基本法が制定され、「地産地消」という言葉が広がっていく。

長い目で地元を盛り上げていく

2000年にはイタリアで始まった、伝統的な製法の食品や郷土の食文化を守る「スローフード運動」が日本でも紹介され、都会の人たちが地方の魅力に気づき始めた。そこへ、輸入米や冷凍ホウレンソウなどの食材を含む、さまざまな食品事件が頻発し、食の安全性に対する消費者の不安が高まる。追い打ちをかけるように2011年3月に福島第一原発事故が起こり、足元の生活を見直したいと考える人々が増えた。地産地消は、生産者と消費者をつなぐキーワードになったのだ。

サラリーマン家庭で育った䕃山氏にとって、地元密着のライフスタイルは、感動を呼ぶものでもあった。妻の実家でご飯を食べると、「このソテーのホウレンソウは誰々さんちのもの」と言われたり、漁師が「サバ持ってきたよ」と来ると、「じゃあ、このキャベツを持っていって」といった話になる。

公私共に多くの人に支えられてパン屋を軌道に乗せ、地元とのつながりを実感したことが、䕃山氏に新たな夢をもたらした。「1人で仕事をする農家さんに感想を伝え、フィードバックしていきたい。お客さんには野菜の使い方などを伝えたい。それは、一時的に人が集まるイベントより、長い目で見たら地元が盛り上がることにつながると思う」。

古い店舗を改装した充麦の店舗(撮影:今井康一)

近年、Uターン、Iターンする人が増え、その流れは全国に広がる。移住する人たちは、1990年代以降に社会に出た若い世代だ。彼らは、就職したら定年まで勤められるというレールに必ずしも乗れない。新卒で就職できない場合もあるし、リストラに遭うこともある。ブラック企業で精神を病む場合もある。既存の道をアテにできないからこそ、自ら何をやりたいか、何をしたら社会に貢献するかを考えるのだ。能動的にかかわることで、社会を変えようとすることは、とても健やかだ。充麦の䕃山氏もその流れの1つを作ろうとしている。

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